ようこそ医薬・バイオ室へ:「低タンパク食」東北人は「濃い」のがお好き

1997.05.10 20号 8面

私の母は、東北生まれの東北育ちで、東京に四○年住んでいても、いま一つあか抜けない。一般に息子だけを持つ親のパターンとして、娘を持つ親のように若い世代との交流が極めて少ないので、新しい情報に疎いところがある。

つき合う友だちも私の小学校時代のPTA仲間で、なぜかそろって男の子しかいない家ばかり。表現がむずかしいが、どこか、その集団には身近に若い女性がいない雰囲気が感じられる。内外のそういう環境のせいか、食生活も昔のままの東北食で、女の子がいる家庭の食事とは色合いが異なる(ような気がする)。

で、その東北食とは野菜と海藻中心で、それだけ聞くと大変ヘルシーな感じである。しかし、タンパク源はたまに豆や魚が出る程度。特に点数計算をしたわけではないが、明らかに低タンパク食で、食塩摂取が多い東北地方特有の食事となっている。

よく教科書に載っているグラフで、食塩摂取量と高血圧症との関係というのがあって、これはダールという人が疫学的に世界的に調べたものである。最も少ないエキスモーで食塩四g/日で高血圧症発生頻度は○%というのは特別として、日本の九州で食塩一六g/日で同頻度は二二%、東北は食塩三○g/日で同頻度は約四○%でダントツである。

元東北大学の木村修一先生らが行った有名な実験がある。通常の血圧のラットと、この稿で何回か登場したもともと高血圧症であるラット(SHR、自然発症高血圧ラット)を使って、両方のラットに卵タンパク質飼料のタンパクのレベルを三段階(高、中、低)に変えたものを与える。

かごの飲料水は五つの濃度(0~2%)に食塩を加えたものが並列で置いてあって、各ラットが好きな食塩濃度の水を選んで飲めるようになっている。毎日各群のラットがどの濃度の食塩水をどれだけ飲むかを測定した。

その結果、SHRは通常ラットよりも明らかに濃い濃度の食塩水を好んで飲むことが示された。また、同じラットの系統でも、低タンパクレベルの餌を与えられたラットは、高タンパクレベルのラットと比べて、食塩摂取量が多いことも明らかになった。

つまり、鶏と卵の関係ではないが、高血圧の人は遺伝的にすでに味の濃い料理を好んで食べるようにプログラムされていて、ますます高血圧になり、放っておくと悪循環を繰り返す。さらに東北人のように低タンパク食の人は、さらに味の濃いものを求めるため、県民の半分は高血圧という結果を招いているらしい。

実際、国民栄養調査の結果をもとに関西人と東北人を比べると、動物性タンパク質を多くとる関西では食塩摂取量が少なく、東北よりも高血圧症も少ないことが判明し、このラットの実験が、人間にそのまま当てはまることが分かっている。

食塩摂取を減らすにはどうするかというと、もちろん糖尿病食がいいのだろうが、それではあまりに味気ないという方は、「だし」と「辛さ」と「酸味」をうまく使うと、食塩し好が軽減されるらしい。

つまり、「だし」をよく取るとグルタミン酸やイノシン酸、グアニル酸のアミノ酸、核酸物質が多くなり、味が濃くなって料理のときに入れる食塩量を減らすことができる。

酢についても、同じ食塩水に酢を少し入れたものと入れないものとでは、入れた方がはるかに塩幸く感じるものである。香辛料も同様の効果があり、特に唐辛子に含まれるカプサイシンは有効と、やはり木村先生らが実験的に証明している。

ま、というわけで、私の母の場合、見事な高血圧で糖尿病の気がある典型的な東北人なわけである。私の場合はというと、幸い動物性タンパク質を多くとっているので、たまに血圧が上がったりすることはあるものの、概して通常血圧である。その代わり、毎年の健康診断で、高脂血症と脂肪肝、尿酸値が高めで食生活の見直しを迫られている。

見直しの主役は妻の役目だと思うが、そういえば、以前妻が飼っていた「鶴太郎」というダックスフントはお腹が床につくほど恐ろしく太っていて、ほとんど成人病の範疇であった。これは毎食の残飯処理の役を担っていたからだが、

妻いわく、

「だっておいしそうに食べるんやもん。鶴太郎もあんたも」

これからは、飽食の時代ではあるものの、残す勇気を持とうと思う今日このごろである。

((株)ジャパン・エナジー医薬バイオ研究所=高橋清)

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