おはしで治す現代病:「活性酸素」なんと酸素が身体の毒になる
「ハイ、息を大きく吸ってぇー、ワン・ツー・スリー、たくさん酸素を取り込んで脂肪を燃焼させましょう」。エアロビ、ジョギング、ウオーキング…老いも若きも「身体のため」スポーツをする人が増えている。しかしスポーツの効罪はさまざまで、運動は身体に良くないとすら言われてしまう場合もある。今回は何と酸素が身体の毒になるというお話。過剰な酸素の存在により引き起こされる酸素毒は、症害を与え老化やがんをはじめとするさまざまな疾病を呼ぶ。われわれの健康のために適当な運動は不可欠だが、あまりに激しいスポーツはかえってマイナスであり、時にはスポーツ選手の早死の原因ではないかとも疑われている。
不老不死は万人の願い。寿命に限りがあるとしても、できるだけ若くありたいと思う。しかし、生あるものは全て老化する。生物がなぜ老化するかについてはさまざまな学説があるが、老化につける薬は現状ではまだない。
毎日の食生活の中で日常起こりうる酸化的な障害からわれわれの身体を保護し、健全な生活を楽しみつつ寿命を全うできることをめざしたい。身体の酸化を防ぐ食生活について、名古屋大学教授・大澤俊彦氏にうかがった。
‐‐酸素が、どうして身体に害になってしまうのですか?
酸素は地球上に生活するものにとって必要不可欠なもの。私たちの身体は、糖や脂質などの栄養素を燃やして活動のエネルギーにするため酸素を大量に使います。しかし過剰な酸素を体内に取り込むことにより酸素毒(活性酸素)も発生してしまう。われわれはもともと、自分自身を酸化的な障害から守るための能力を備えていますが、何らかの原因で活性酸素の生成が盛んすぎると、自らの体内の防御能力だけでは酸素毒から身を守りきれなくなってしまいます。
活性酸素発生の原因となるのは、激しい運動・食生活の乱れ・環境汚染・ストレスなどさまざま。だから酸素毒の被害はスポーツ選手に限らず、いまや現代人の誰もが避け難い状況におかれているのです。
‐‐活性酸素はどのような病気を引き起こすのですか。
天ぷら油は何回も使っている間にドロドロとして黒っぽくなりますが、これは天ぷら油が過酸化されたため。これと同じようなことが体内でも起こるのです。
日焼けをするとシミ、ソバカスができる。こんな肌の老化現象も実は、活性酸素のせい。紫外線に当たることによって、大気中の酸素が体内で活性酸素に変化するためなのです。
動脈硬化の原因である血管内の粥状化(老廃物がたまってしまう現象)も酸素毒の仕業。血中のコレステロールなどが過酸化して泡沫化したものが血管内にこびりついてしまうのです。また、がん細胞でも脂質の過酸化が多く起きています。
老化とともに酸化を抑える力が弱まってくるため、あらゆる病気にかかりやすくなる。がんをはじめ動脈硬化や本体性高血圧、パーキンソン病、アルツハイマー型痴呆、アミロイド沈着、免疫不全など、老化が原因と考えられる老年病をはじめ、活性酸素は現代人を悩ますほとんどの病気のモトであるといわれています。
‐‐どう食べれば過酸化を抑制できるでしょうか。
そこで注目されているのが抗酸化食品なんです。赤ワインを飲むと身体の酸化が抑えられると、今話題になっていますね。ビタミンEやベータカロチン、お茶に含まれるカテキン、またココア中のポリフェノールなども過剰な活性酸素の発生を抑える効果が期待できるといわれています。
またゴマにはセサミノールという抗酸化物質が含まれています。その証拠に、一般に酸化しやすいと言われる油の中でも、ゴマ油は酸化が遅い。ゴマや赤エンドウ・タマリンドなどの色素の強い熱帯植物の種子は、植物自身が自分の身を守るため、抗酸化物質を豊富に持っているのです。
ゴマがいいときくとゴマばかり食べたくなるのが人情ですが、単一的にでなく複合的にいろいろな栄養素を摂取することが大切です。
薬と違って食事の効果はのんびりなもの。また食べ物の役目はあくまでも予防や抑制であって治療ではないので、老化を抑制する食生活といってもすぐに身体に現れてはこないかもしれません。
が、老化を少しでも先に伸ばすために、若い時から保険をかけるつもりで、食生活をおろそかにせず楽しむことが、最も老化抑制に効果的なのです。