屋久島、伝説のサバ節づくり紀行 うま味はカビのみぞ知る

1996.06.10 9号 3面

幻の梅吉サバ。関東の蕎麦屋がとびきり上等のだしがとれると絶賛する節。それは屋久島の梅吉という漁場で揚がる大きくてうまいごまサバを使って作られる。産卵期の4月から7月は程良く魚の身体の油分が落ちるので、節づくりに最適な季節。鹿児島県の屋久島でサバ節生産をする丸勝水産(株)真辺勝志さんを訪ねた。

「ミイラ作りです」。そう説明された。

鮎の住む小川の隣に真辺さんの工場はある。訪問した日はとても天気の良い日で、カビ付けしたサバ節が川の土手にズラーッと並べられていた。「こうして悪いカビを防ぐんです」。カツオブシと同じでサバ節作りにもカビ付けは欠かせない。

近海でとれた新鮮なサバ、山の天然水、薪、太陽。世界文化遺産に指定された緑豊かな屋久島の自然をそっくりそのまま活かした昔ながらの製法で屋久サバ節は作られていた。魚をさばき、いぶし、干し、それからカビを付けていく。一ヵ月のうち三十五日雨が降るのでは…と言われるほど高温多湿な屋久島の気候は、このカビ付けと天然乾燥に非常に適している。代々使われているカビ室にただ入れておくだけで良質のカビが付いてサバ節を完成させていくという。

しかしそのまま放置すると今度は有害カビが発生するため、太陽の日に干して一旦カビを殺す。そして再びカビ付けと日干し作業を繰り返す。「わかりやすく言えば魚をミイラ化させるようなものです。何度も干したりすることでどんどん水分と脂分を抜いていく。すると生の魚にはなかったうま味(アミノ酸)が出てくるんです」と真辺さん。

どれくらいカビを付ければいいのか、この判断に熟練を要する。カビは一番カビ、二番、三番と付けていくに従って青から茶色へと色が変わる。「サバは一匹一匹違うから、カビの付き具合もそれぞれ。たくさん付きすぎても足りなくても仕上がりに影響するので、つねに一つひとつの状態、色を自分の目で確かめます」

屋久サバ節は自然と人間の技の結晶なのだ。

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