百歳への招待「長寿の源」食材を追う:「つばめの巣」

1996.04.10 7号 14面

今回は中国の最抗老食を2点セレクト。ふかひれ、つばめの巣とも存在はよく知られているが、知れば知るほど奥が深く、貴重さを納得できる。

(食品評論家・太木光一)

つばめの巣はふかひれと並んで数多い中国の食材の中で最高の珍味とされている。英語ではバードネストとなりウミツバメの巣といわれているが、正しくはアナツバメの巣である。一般のツバメより小さくて細い。

翼長は一二センチほど、背面は淡黒褐色で、腹面は白色している。石灰岩の海岸に棲み、断崖にある洞穴や、海に突き出した絶壁の下側に巣をつくる。集団で生活をする習性はあるが渡り鳥ではない。

年二回、1月と7月に卵を産む。この時が巣を採取するシーズンで、長い竹棹を持って命知らずの巣集めが行なわれる。巣をかき落されたつばめは、すぐまた新しい巣づくりを始める。二度目に巣を落とされたつばめは三度目の巣づくりを始める。この時は唾液も枯れて血の混じることもある。

燕巣で赤い血の入ったものは、味も絶品といわれているが、つばめのために採ってはいけないとされている。

巣は唾液、海藻、羽毛や木の枝などでつくられる。最も多くとれる地域は中国南部からマレーシアにかけて、とくにベトナム産が高品質とされている。

とれる場所は限定され、シーズンも短く採取は命がけで、量も少ない。しかし需要は世界的に強い。価格の高くなるのは当然のことだ。バンコックとシンガポールの華僑が市場を支配している。

巣の形状は極めて不規則で、色は白色、炒花色、灰色、黒色などとマチマチ。色がつくに従って品質は落ちる。

最高級の乳白色のものを洗っていると銀糸のように冴えてくる。これは皇帝菜として〓燕脯(つばめの巣の煮込)、攅糸燕菜(鶏肉、ハムとつばめの巣のスープ)に使われる。無味・無臭をいかにして最高の味に仕上げるか料理人の腕のみせどころだ。

このスープの出る料理は燕菜席と呼ばれ高価。その昔、中国の金持ちたちは年とともに精力が弱ってくるのに、ますます若い美女を抱えるので、スタミナ維持のため燕巣スープを愛用したといわれている。

中国の長編小説の「紅楼夢」にも、昔の特権階級層の生活が描写されているなかに燕巣スープを飲む場面がみられる。

スープにはコンドロイチンが多く含まれ、老化防止、スタミナ増強、病後食や滋陰補食、養肺によいとされている。

老人を尊ぶ中国では、老人の防老延年食とみている。

本草綱目をみても潤燥沢古・生津益血の食品として病後の妙品と称えている。また漢方薬店では結核患者にとって養肺・喀血、吐血に卓効ありとすすめている。

この場合、高級品ではなく崩れた形の悪いものでよい。

つばめの巣は長年保存しても虫もつかず、カビも生えない。へちまのように網状でかたく、しかももろいのが本物である。

世界的に高値が続く中で臘燕(ラーイェン)、人造燕巣がみられるが、これはてんぐさや寒天でつくった代用品で見分けることは容易だ。

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