百歳さんこんにちは:静岡県・大石さきさん(99歳)
静岡県藤枝市に暮らす大石さきさん(99歳)は、保健師として同市の保健衛生向上に人生を捧げてきた。定年後は「おばあちゃん劇団 ほのお」を立ち上げ、「老い」や健康をテーマに自作の演劇を上演。地域で評判になった。
●夢は医者になること
さきさんは1916(大正5)年3月、農家の三女に生まれた。「学校に行って医者になりたかったんだけど、家が貧しくてね」。医師に近い看護師の資格を取ろうと13歳から看護婦養成所に通い、14歳で免許を取得。年齢が若すぎたため、最初は准看護師として働き始め、その後、助産師の資格も取った。努力の人なのだ。
●壮絶な引き揚げ体験
いまは亡き夫と結婚したのは1941(昭和16)年、25歳の時だった。戦争の真っただ中だった時代。中国の前線で陸軍軍属として働いていた夫に従い中国に渡り、2人の子どもを授かった。
中国で敗戦を迎えたさきさん。それまでは豊かな暮らしだったが、「勝つのと負けるのとでは、こうも違うのかと感じたよ」と語る。子どもを抱えながら、生きるか死ぬかの壮絶な引き揚げを経験した。幸い、夫とも一緒に終戦の翌年、帰国することができた。「戦争は絶対にやっちゃいけないよ」が口癖だ。
引き揚げ後は、食べる物にも着る物にも困る生活。さきさんは家族の生活を支えるため、難関の検定試験を突破して保健師の資格を取り、故郷の大洲村で働き始めた。当時は、召集された医師が帰らず無医村の状態。伝染病などを予防するために走り回った。
1954(昭和29)年からは大洲村などが合併されてできた藤枝市の市役所に勤務。県内ワースト2位だった乳児死亡率の改善などに取り組んだ。「市長や市立病院の先生が意欲的でね。乳児健診や老人クラブなどは全部、私たちが始めたのよ。厚生省が視察に来たほど」と、さきさんは胸を張る。藤枝市は後に厚生大臣(当時)から保健文化賞を贈られた。さきさんも仕事ぶりが評価され、藤枝市初の女性係長になった。
●老いや健康を劇仕立てで
定年後は、地域住民に老いや健康の問題を考えてもらいたいという思いから、「おばあちゃん劇団 ほのお」を結成。嫁・姑の葛藤や認知症の問題を正面から取り上げた脚本を自ら執筆し、仲間たちと上演した。「口で説明するのではなく、実際に見せて『うちも同じよね』と考えてもらうことが大切だから」。
劇は評判を呼び、県内だけでなく茨城や栃木、九州の福岡まで公演に行った。上演回数はのべ800回。テレビ局が取材に来たこともある。「ほのお」の活動やさきさんの半生については、妹の孫にあたる写真家・多々良栄里さんが『おばあちゃん劇団 ほのお~大石さきと愉快な仲間たち』(新風舎)にまとめている。
●マグロと緑茶が好物
食べ物の好き嫌いはない。静岡県人だけにマグロ、とくにトロの寿司が好物で、緑茶を1日に何杯も飲む。保健師という仕事柄、栄養バランスなどに厳しいのかと思いきや「自分の好きな物を食べるのが大切だよ」とあっさり。
健康法は頭を使うこと。世の中のことを知るために毎日、新聞を読む。テレビでニュースを見るのも大好きだ。「打ち込める趣味を持つことも大切。周囲に喜んでもらえるものなら、なお良いね」。
昨年、転んで腰を痛め3カ月ほど寝込んだが、起きて歩くよう心がけ、杖をついて1時間の散歩ができるまでに回復した。いまの目標は100歳で舞台に立つこと。「できるだけ長生きしたいね」と笑顔で話してくれた。
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