地域ルポ 行徳(千葉・市川市)昔孤島、いま商業地

1994.12.19 66号 20面

千葉県市川市の南西部。商圏人口一〇万人。行徳は東京・日本橋から地下鉄東西線で約二〇分。東京のベッドタウンとしての存在にある。

一日の乗降者数七万五〇〇〇人。駅を中心軸にして「駅前通り商店街」をはじめ、「フラワー通り」「南口中央商店街」「南口一番街」「パーク通り」など多くの商店街を形成しており、「西友ストア」「マルエツ」「ポニー」「ユニマート」「福助」など大型店の商業集積も進んでいる。

外食分野においては駅の近接地にマクドナルド、KFC、ドトールコーヒー、サーティワンアイスクリームなど大手チェーンの進出も見られ、独自の賑わいをみせている。

しかし、一方においては地域間競争の激化、地価や物件価格の上昇による行徳離れといった要因で、街の吸引力が低下してきているという見方もある。

昭和56年に南行徳駅ができたのに続いて、近い将来、隣接の原木中山との中間地点に新駅が建設されるという計画もある。このため、地域の活性化が望まれているところだ。

行徳は江戸時代から明治の中期まで塩の生産地として栄えたところだ。現在はその面影はないが、東京のベッドタウンとしての新たな発展をみせている。

この街は東京寄り西側は旧江戸川を挟んで東京の江戸川区と接し、東側は江戸川放水路、南は東京湾に接する臨海部で、まわりを水で囲まれるという地域特性にある。

このため、地下鉄東西線が開通するまでは陸の孤島と形容されていたところだ。東西線の開業は昭和44年3月で、中野‐西船橋(約三〇キロメートル)を結ぶ地域唯一の鉄道路線だ。

行徳はこの路線の開業を契機に発展してきたわけだが、当時は駅周辺は畑やハス池だった。現在はビルが建ち商店が軒を連らねて都市の賑わいをみせているわけだが、今では想像もつかない光景だ。

駅の改札口を出る。高架下のフロントスペースと接して駅前広場が展開する。そこから周囲を見渡すと交差点の角地や路面沿いに大手の市中銀行が目につく。三菱、住友、さくら、大和、富士銀行など。

銀行が多いということはそれだけ商業活動が活発ということだ。駅広場前面を南北に貫くのは行徳のメーンストリート「行徳駅前通り」(商店街)だ。四車線道路で北は行徳バイパス、南は湾岸道路にリンクする。

駅広場を北側に歩く。狭い路地から即ショッピング施設に入る形になる。衣料・食品・生活雑貨の「行徳ポニー」だ。

ポニーは一〇階建てビルでの出店で、店舗は一、二階、三階から一〇階までが賃貸住宅。売場面積約六〇〇坪。昭和47年9月オープン。地域で最初に登場した大規模小売店舗だという。年商三六億円。

このビルの一階にケンタッキーフライドチキン(KFC)が入居している。ビルインでありながら、駅広場に面しているので、外からもアプローチできる。

店舗面積三一坪、客席数三九席。平成4年6月のオープンで、駅前立地でかつショッピング施設での出店なので、ヤングからファミリー層まで客層は多様だ。

人気メニューはポテトセット(五〇〇円)、サンドセット(五〇〇円)、スープセット(六五〇円)、6ピースホームパック(一一一〇円)、チキンフィレサンド(三二〇円)で、客単価は六〇〇~七〇〇円前後。平均日商三〇~四〇万円(推計)。

ポニーの北側は東西に伸びる二車線の商店街だが、KFCに隣接する形でマクドナルド、ミスタードーナツ、ドトールコーヒーなどの大手外食チェーンが出店している。

マクドナルドはビル一、二階での出店で、店舗面積六四坪、客席数一階一七席、二階一三四席の計一五一席。昭和60年5月のオープンで、連日中高生やファミリー客で賑わっている。

マックの右隣は富士銀行。駅前商店街の中心、交差点の角地に位置する。ここは交差点東側に西友ストアが出店しており、ショッピング客で人の往来が激しく、地域でも最も賑やかなところだ。

富士銀行の北隣は第一勧業銀行、交差点の東側右角に大和銀行。たしかに銀行が多い街だ。

大和銀行の北側、西友ストアへの進入路を挟む交差点の角地は一〇階建てのビルだ。一階にメガネショップの「パリミキ」、二階に中国レストラン「寿光」が出店する。

三階から上は賃貸マンションで、行徳はこういった形態のビルが多い。寿光はオープンして一五年になる。地域の老舗格の中国料理の店で、行徳では広く知られた存在だ。

店舗面積六〇坪、客席数七〇席。パーティションで仕切れば宴会もできる対応になっている。

料理はランチメニューからディナー、コースメニューまで二〇〇~三〇〇品目を揃えており、多様な飲食ニーズに対応している。

秋冬のお勧めメニューは、「特選季節のコース料理」、一人前三〇〇〇円から八〇〇〇円までの五つのコース料理を提供しているが、五〇〇〇円の「寿」(二~四人、八品)は、五種盛合せ前菜、季節野菜と牛肉のカキソース炒め、芝エビのチリソース煮、カニ爪の中国風揚げ物、銀杏と鶏肉の角切り炒め、季節の海鮮料理、フカヒレ鶏肉入りスープ、アーモンドゼリーと甘点心というリッチなものだ。

このほか、北京ダック(一羽一万円)もお勧めだ。これは皮と身をまるまる提供するので、お値打ち品といえる。

営業時間は午前11時から午後10時(第三木曜日定休)だが、昼間は午後2時まで週替りランチ(九五〇円)や弁当(九〇〇円~一一〇〇円)を提供している。

弁当は幕の内だが、接待用として「寿」(一九〇〇円)、「光」(一七〇〇円)も調整しており、周辺の会社関係や個人の祝いごとに好評を博しているものだ。

客単価は昼一二〇〇円、夜二三〇〇〇円前後。月商七〇~八〇万円の水準だが、これはバブル時に比べ約二割減の売上げだ。

客層は臨海部の工場関係者や店舗周辺の会社、商店従業員、カップル、ファミリー客など。

「正直いって街全体としても元気がなくなったという感じです。元来が会社が少ない街ですから、ボリュームとしての勤め人の需要が見込めませんから、やはりファミリー層が中心ターゲットということになります。

ですから、土・日営業型の街ということで、平日の集客はパッとしないというのが実状です。そういう意味におきましては、街全体を活性化して、何か吸引力のある施設をつくるべきじゃないかと思います」(寿光代表取締役曽木幸健氏)

街の活性化といえば、この街は駅周辺の路面や角地に前記のとおり銀行が多く立地しているので、全体的な賑やかさや温かみに欠ける。

とくに銀行は午後3時以降は無人になるので、なお無機質な状況を呈するわけだ。

それはともあれ、歩を西友ストア方面に進める。西友は地上四階、地下一階、延床面積四七〇〇坪。昭和61年10月のオープンで、地域では最後発の出店だ。

売場は一階がアクセサリー、二階レディースファッションと生活サービス、三階メンズファッション、四階住まいと暮らしと趣味、地下一階が食品とファストフードコーナーというフロア構成になっている。

FFコーナーは和風スナック(タコ焼き・お好み焼き・焼きそば)「道頓堀」、サッポロラーメン「納沙布」、ハンバーガー・アイスクリーム・ジュース「オーボーイ」の三店舗のテナント出店。

メニュー単価は四〇〇~六〇〇円前後で、客層はショッピングの主婦やファミリー客が主体。客席は約八〇席で、店舗はコの字型に客席を囲む形でレイアウトされており、屋台のようなフランクな雰囲気だ。

駅前広場に戻る。広場の南側の角は交差点になっている。南北方向の駅前通りと東西方向に伸びる狭い商店街がクロスする交差点であるわけだが、東側の角地に住友銀行、西側にさくら銀行、その北側近接地に三菱銀行が出店している。この西側の商店街の通りは、「南口中央商店街」や「フラワー通り商店街」などにつながっているわけだが、広場に立って周辺を見渡すだけでも、駅舎に接する形で「サーティワンアイスクリーム」、三菱銀行前面に居酒屋チェーン「呑兵衛」、炭火焼「白頭山」、テークアウトすしチェーン「京樽」などの店が目に入る。

住友銀行の前面を通って東側に歩けば、住居と店舗兼用の衣料、薬局、雑貨など生活用品の小売店舗を目にするが、この地域は商業集積度は低く、まだ店の進出する余地があるという印象だ。

さらに東(行徳駅前一丁目)方向に歩を進める。

商店もなく閑散とした住宅街という雰囲気だが、一〇〇〇坪ほどの公園に出くわす。昭和44年に施行した行徳区画整理事業の記念施設「南根公園」で、地域住民のレジャースペースだ。

この公園の東側に回り込むと土蔵造りの店舗が目に入る。壁面に「ステーキ・シャブシャブ・洋食レストランせいとう」の垂れ幕が下がっている。

中堅外食チェーンの「せいとう・あおしまグループ」(本部=東京・中野)が経営するステーキハウス「せいとう」行徳店だ。

自社の遊休地を利用しての出店で、昨年9月のオープンだ。建坪約三〇坪の独立店舗で、二階建ての白壁の蔵風のデザインが人目をひく。

一階がテーブル、個室を含め三四席、二階が板の間と畳の個室対応の部屋で八五席。外装同様にオール木造りのシックな内装で、心が落ち着く店構えだ。

店の売りものは看板どおりに神戸牛を使ったステーキ(四六〇〇~七六〇〇円)、しゃぶしゃぶ(二一〇〇~三八〇〇円)で、このほかにハンバーグ、フライ、グラタン(八五〇~一八〇〇円)といった単品の食事メニュー、つまみ類(六〇〇~一二〇〇円)、パスタ(七〇〇~九〇〇円)、サラダ(五五〇~六〇〇円)などをラインアップしている。

客層は日中がランチ目当ての主婦で九割、夜はアルコールや食事でサラリーマンが八、九割、土・日はファミリー客主体といった流れ。客単価は昼一一〇〇~一二〇〇円前後、夜二五〇〇~三〇〇〇円。

売上げは月商九〇〇万円。これは目標をクリアしている数字だという。

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