外食の潮流を読む(20)飲食業は「値下げ」ではなく「商品価値」の創造にこだわろう

2017.02.06 456号 12面

 「使用食材を全品国産化して、『安全・安心』のプランディングを行う」という話を前号の鳥貴族の記事で書いた。同社は2016年に会社設立30周年を迎えて、それまでの達成目標として「食材の全品国産化」を掲げていたのだが、結果同年10月に達成することができた。

 全品国産化は輸入品を使用する場合と比べてコストがかかる。また、同じポテトフライでも産地を増やすと味が変わる可能性もある。かつてのチェーンレストランは急速な成長を支えて安定供給を維持していくために食材の産地を海外に求めていった。しかしその活動はその後反省の対象となり、今日のチェーンレスランは国産化にシフトしている。それはお客さまからの信頼感を深めるためだ。

 この先駆的チェーンはリンガーハットである。私事であるが「野菜を食べよう」と思ったらリンガーハットを連想する。「リンガーハットの長崎ちゃんぽん1杯で1日に必要な野菜が全品国産で食べられる」からだ。

 リンガーハットの「野菜の国産化100%」は2009年から始まった。そもそもリンガーハットの長崎ちゃんぽんは、一度にたくさんの食材が食べられるということで商品力の高さが認知されていた。しかしながら多店化の過程で客数減の節目を迎えた。2001年8月に吉野家が牛丼並盛400円を280円に値下げしたことは飲食業界に大きな衝撃をもたらしたが、リンガーハットはそれより1年早く値下げに取り組んで客数を増やしていた。

 「客数が減ると価格を下げる」のは商売の常だ。だがこれで客数が増えてもしばらくすれば客数は元に戻り、結果売上げも利益も下がる。リンガーハットは2008年当時、大手ハンバーガーチェーンのようにクーポンをばらまきするようになり、結果業績を大幅にダウンさせてしまった。店舗段階ではピーク時の7割程度になっていた。

 この当時、同社の米濱和久会長は日本フードサービス協会の会長を務めていて日本の産地を巡る機会を重ねていた。そこで確信したことは「日本の野菜はおいしい」ということ。「これをお客様にアピールしよう」ということで「野菜の国産化100%」に踏み切ることになった。日本の野菜は高い。10億円のコストプッシュとなる。それを解消するためにリンガーハットは値上げを断行した。結果、お客様は増えて売上げ・利益ともに大幅に増えた。

 この「野菜の国産化100%」によるV字回復はテレビ番組で盛んに取り上げられるようになり、プラスのスパイラルにつながっていった。「値下げ」と「価値向上」は「戦術」と「戦略」に位置付けられ、それぞれ重要であろう。しかしながら今日の飲食業がコンビニをはじめとしたさまざまな業態と混戦している中で、その存在意義を示すものは「商品価値」を創造するプライドではないだろうか。「ちょっと高いけど素敵だ」ということが今日の飲食業が目指すべきポジションではないだろうか。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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