アポなし!新業態チェック(140)「せんべろスタンド やきとり魁(さきがけ)」
●ユナイテッド&コレクティブ新業態 ファストフード店のようなセルフ方式の居酒屋
居酒屋「てけてけ」などを展開するユナイテッド&コレクティブが、東京・新宿の歌舞伎町に新しいスタイルの居酒屋「せんべろスタンド やきとり魁」を出店した。
同店は、アルコール業態では珍しい「ファーストフード(同社発表の表記)」方式の居酒屋。来店客は、入店すると目の前にある販売カウンターで料理や飲み物を注文し、会計を済ませて商品を受け取る。商品はトレーにのせてセルフサービスで運び、調理に時間がかかる料理は呼び出し端末を渡される。出来上がったら取りに行くというシステムだ。食器やトレーを下げるのもお客が自ら行う。
メニューは同社が得意とする焼き鳥が中心。「大きいねぎま串」「つくね串」「レバー串」など10種類以上の焼き鳥がタレと塩、どれも1本単位で99円(以下すべて税抜き)とリーズナブルな価格設定だ。「魁サラダ」「鶏皮ポン酢」などの、すぐ出せる冷製料理は199円から。「チーズ玉子焼き」「名物!唐揚げ」(各250円)などの焼き物や揚げ物。「親子丼」「ぶっかけ煮込みTKG」(各250円)といった食事メニューもある。ドリンク類は、ハイボールが199円(中)、ビールが350円(中)からで、飲料のグラスはプラスチック製の使い捨て容器を使用している。
同社がこの店舗を開発したのは、外食における「人件費高騰・人手不足」「原材料費高騰」「家賃高騰」「低価格化」という四つの大きな問題を解決するためだという。このセルフサービスの仕組みで人件費を大幅に削減し、客単価1000円で成立する業態をつくり上げた。
★けんじの評価 可能性を感じたが早くも閉店
実は、この原稿を書き上げる直前に、同店が閉店してしまったという情報が入った。オープンからまだ3ヵ月ほど。同店を訪れて少し期待をしていただけに正直に言って驚いた。臨店したのは平日で客数は多くなかったが、その客層は低価格だからという理由だけで大衆居酒屋を利用するような人たちではないように感じたのだ。どちらかと言えば、ここ数年続々と増え続けるフードホールでビールやワインを楽しむ若い人たちに近かったと思う。
この店は規模も小さく、地下のため閉鎖的な雰囲気だったが、もしこれが開放感のある共有客席を持つフードホールの1ブースだったらどうだっただろう。もちろん、メニューにはもっと専門性のある商品が必要かもしれないし、商品数を絞り込んで、独自性を打ち出せる分野に特化すべきだったかもしれない。立地も歌舞伎町の路地裏ではなく、渋谷区や港区などのもっと華やかな場所であったら。もしそうした条件が揃えば、少なくともフードホールでグラスを傾けているような人たちにとって、この店を利用することに大きな違和感はないように思えた。新しいスタイルの飲食店として、それなりの可能性があるように感じたのだ。
店舗運営の仕組みを変えて経費構造を変化させる。それによって客単価が変わり、来店客層が変わる。これはまさに新業態の開発そのものだ。確かに客単価は1000円だったのだが、継続して営業できるだけの客数が確保できなかったのだろう。新しいスタイルを認知させるため、十分なプロモーションが必要な店であったようにも思う。今後に注目したいブランドだっただけに残念だ。
(外食ジャーナリスト・鷲見けんじ)
◆鷲見けんじ=外食チェーン黎明期から、FFやFRなどの動向を消費者の目線で見続けてきたアンチグルメな庶民派ジャーナリスト。顧客の気持ちを外食企業に伝えるべく、甘口辛口を取り混ぜた乱筆乱文でチェーンの新業態をチェック。朝マックとロイヤルホストのカレーフェアをこよなく愛する外食ウオッチャー。
●店舗情報
「せんべろスタンド やきとり魁(さきがけ)」
開業=2018年11月22日/所在地=東京都新宿区歌舞伎町1-23-10 シャトレビル地下1階(閉店)