飲食店成功の知恵(56)開店編 失敗しやすいポイント(6)
バブル全盛のころ、経営の多角化の一環として飲食業に乗り出した企業は少なくない。大から小までさまざまな形で飲食業界になだれ込んできた。しかし、それらのお店の大半はバブルの崩壊とともに撤退したり、営業を続けていても苦戦を強いられているようだ。
それらのお店の繁栄が長続きしなかったのは、直接的には不景気のせいともいえるだろう。お店よりも本体の方が先におかしくなってしまったというケースも少なくない。しかし、景気が悪くなったらとたんにダメになったというのでは、とてもビジネスとしては認められない。景気の低迷でたしかに飲食業界のサバイバル状況はより厳しくなっているが、繁盛を維持しているお店は数え切れない。
もちろん、バブル以前からずっと、多角経営のお店はたくさんあった。繁盛店に成長するお店もあれば、あっという間に閉店に追い込まれるお店もあった。多角経営は何もバブル期だけの突出した現象ではない。ただ、他の専業店のオープン事例に比べると、失敗の確率が高かったことは事実である。
多角経営店の一番の問題点は、いうまでもなく専業ではない、という点だ。文字通りの副業、平たくいえば“片手間”程度での取り組みが多い。バブル時代には、「本業の儲けの税金を払うくらいなら」とか「税金を払ったと思えば失敗しても痛くはない」などとうそぶく経営者もいたが、多角経営の場合、多かれ少なかれこういう気持ちが底にあることは否定できないだろう。その意味では、前回取り上げた他業界からの転業よりも、もっとしりが軽い。フランチャイズチェーンへの加盟が多いのは、その何よりの証拠である。本業ではないのだから、真剣に勉強する気など毛頭ない。パッケージを買うだけでお店ができるなら、それに越したことはない‐‐要するに“ラクをして儲けよう”という発想だ。これでは失敗して当然である。
私は別に、多角経営に偏見を持っているわけではない。ただ、あまりにも無謀なケースが多いのを見ていられないだけである。
たとえば、人材の問題。ほかに本業がある以上、お店の運営は誰かに任せなければならないのは当たり前のことだ。ということは、いいパートナーに出会えなければ成功はむずかしいということになる。こんなことくらい、誰にでも分かりそうなことだ。にもかかわらず、求人誌などで募集して、その人間をよく見もしないで店長にしたりする。とりあえず店長がいれば、何とかなるとでも思っているのだろうか。店長の質によってお店の成績に天と地ほどの差が出る、というのは飲食業界の常識だが、勉強していないから、そこのところが本当に分かっていない。しかも、片手間意識で他力本願になりやすいから、お店のオープンはとんでもないギャンブルになってしまうのである。
また“余力”で出店するために、名の通った繁華街など自分の本拠地から離れた場所に出店しがちな傾向もある。そういう場所にお店を持っている方が“カッコいい”からだろうが、それでは自分の目が全く届かなくなってしまう。三日に一度でも顔を出せれば、経営についてはプロなのだから、経営状態をそれなりにチェックできるのに、それさえもできなくなる。さらに、売上高の大きさに目を取られてお店の規模を大きくすれば、リスクはさらに大きくなる。
人材という点ではもうひとつ、落とし穴がある。高級割烹のような職人がいなければ成り立たない業種の場合だ。昔は料理の分かる経営者がふつうだったが、いまはとても職人にかなわない人が圧倒的だ。料理について素人なら、そういう業種は避けて、システム化による多店化こそめざすべきである。
フードサービスコンサルタントグループ
チーフコンサルタント 宇井 義行














