飲食店成功の知恵(72)繁盛編 機会損失に気をつけよう

1995.08.21 83号 23面

飲食店が陥りやすい落とし穴に、機会損失がある。機会損失とはひと言でいえば、売上げのチャンスを失うことである。本来なら売上げを見込めたはずなのに、お客への対応がまずいばかりにみすみすそのチャンスを逃してしまうことだ。

機会損失がやっかいなのは、毎日の営業の中にゴロゴロころがっているのに、いつ、どこで発生しているのかを気づきにくいことだ。なぜなら、食器を割ったとか何かを壊したというのと違って、機会損失は正確な数字で表れないからである。

たとえば、商品の売切れなど、よく起こる機会損失である。これは、予測していた以上にお客が詰めかけたために起こるケースと、もともと客数予測がいい加減なケースとがあるが、いずれにしても売れるはずだった商品=お客が目当てにしていた商品が売れないのである。なければ別のメニューを注文するお客も多いだろうから、甘い考えの経営者は別に損はないとタカをくくる。しかし、品切れは明らかに、お客との契約不履行行為である。そういうことがたびたびあるようでは、お店に対するお客の信頼は失われてしまう。その結果が客数減として表れることはいうまでもない。そのときの一皿、二皿の売上げは大したことがないかもしれないが、こうなると損失は、はかり知れなく大きい。

お店が満席状態のとき、従業員の対応の仕方が悪かったために、せっかく来てくれたお客が帰ってしまうというのも、よくあるケースである。また、お客が追加オーダーをしようとウエートレスを呼んでいるのに、ウエートレスは気がつかない。お客は面倒になって追加オーダーをやめてしまう。これも見過ごしやすい機会損失のひとつである。

このように、機会損失はいつ起きても不思義ではない損失である。その損失額は帳簿には記載されない。しかし、明らかな損失なのである。

では、どうすれば防げるのか。すでにお気づきの方も多いと思うが、従業員教育を見直し、あるべきサービスの仕方を徹底させることで、損失の大半は防げるはずなのだ。

たとえば、従業員がつねにお客のコップの水に注意しているように徹底させる。そうすれば自然と、従業員はお客の状態に気を配ることになる。食べ終えた皿を下げるのも素早くなるから、追加オーダーのサインを見落とすなどという初歩的なミスも防げるわけだ。

ウエーティング客への対応については、経営者自らがお店の姿勢として、その対策を練る必要がある。よく見かけるのが「すぐに席が空きますから」という対応だが、ほとんどの場合、その言葉に根拠はない。店内の様子を見極め、店主なり店長なりが正確な待ち時間を告げるのは、飲食店として当然のお客に対する礼儀なのだが、そういう意識がまるで感じられなかったりする。だから、お客は気分を害して帰ってしまうのである。なかには短気なお客もいるだろうが、たいていの場合は、待ち時間をきちんと告げ、お待たせして申しわけありませんという態度で対応すれば納得して待ってくれるものである。どうしても断わらざるを得ない場合は、サービス券を渡して次の来店を促す。それくらいの誠意はあってしかるべきである。

機会損失は、その場その場だけの問題ではない。たとえば、従業員の接客サービスの仕方が悪いという噂が広がって、客足が遠のいてしまうというのも、広い意味での機会損失といえる。

機会損失は、その認識をしっかりと持たない限り必ず、そして繰り返し発生する。だから怖いのだ。あなたも真剣に反省してみてほしい。

フードサービスコンサルタントグループ

チーフコンサルタント 宇井 義行

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