日食SDGsセミナー第1弾 4氏が語る「食品ロス・容器包装削減の現状」
地球環境保全や人道支援が叫ばれる中でSDGsの機運が高まり、その中の食品ロスやプラスチック問題について日本食糧新聞社は、それらに取り組む行政や実務面での第一人者により現状に迫った。農林水産省の太田豊彦食料産業局長は食品リサイクルループシステムの構築の重要性を説き、環境問題を考えるEPACの櫻庭英悦代表理事は国境炭素税導入への早期対策を求め、日本コカ・コーラの田中美代子副社長は30年にはPET容器を100%リサイクル実現への取組みや、コープこうべの益尾大祐執行役員は食品ロス削減から始まり善意による地域の助け合いの要素が加わってSDGsに向けて活動しているという現状について報告した。これは8日、東京・八丁堀の食情報館でSDGsセミナー第1弾となる「食品ロス特別セミナー」を開催したものでコロナ禍で会合が制限される中、三密を考慮したWeb講演・受講態勢で350人を超える全国の関係者が受講した。(宇津木宏昌)
●「食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢」 太田豊彦農林水産省食料産業局長
食品ロス(可食部)の発生量は2018年推計で600万t、国民1人当たりでは年間およそ47kg廃棄していることになる。このうち農水省が管轄する事業系が324万tで、業種別内訳では食品製造業が39%、外食産業が36%でこの2業種で4分の3を占めている。30年までの半減目標の273万tまで51万tだが、目標達成には異業種との協働による取組みや消費者も一体となったさらなる機運醸成・行動変革などさまざまなステークホルダーとの連携が必要だ。
事業系食品ロスの削減に向けた取組みとして(1)商慣習の見直し(2)需要に見合った販売の推進(3)フードバンクの活用(4)消費者への啓発(5)飲食店などでの「食べきり」「持ち帰り」の推進(6)ICTやAIなどの新技術を活用した食品ロス削減に効果的なビジネスの推進–が挙げられる。
食品リサイクルでは、食品製造業から排出される廃棄物は、均質で量が安定しているため分別も容易で栄養価を最も有効に活用できる飼料へのリサイクルが最適。外食産業から排出される廃棄物のうち、食べ残しなどは家畜に対して有害なものが混入する可能性があるため飼料へのリサイクルに不向きなものが多く、分別が粗くても対応可能なメタン化が有効だが設備導入が高コストのためハードルが高い。
食品工場や食品スーパーなど食品関連事業者から発生する廃棄物から肥料・飼料を生産し、それを用いて生産した農産物などを食品事業者などが取り扱う「食品リサイクルループ」の形成が重要だ。
●「社会課題の解決に向けて推し進める『コカ・コーラ社の“容器の2030年ビジョン”』とは」 田中美代子日本コカ・コーラ広報・渉外&サスティナビリティー推進本部副社長
米国のザ・コカ・コーラ・カンパニーは2018年1月、清涼飲料業界でも初となるグローバル目標「廃棄物ゼロ社会」を発表し、具体的には2030年までに世界で販売する製品の販売量に相当する缶、PET容器全てを回収・リサイクルするために活動している。
日本のPETボトルの現状を見ると、93.0%が回収され、85.8%がリサイクルされている。日本コカ・コーラ社では2019年実績として80.59%をリサイクル可能な素材で作り、25年までに全ての製品をリサイクル可能な素材にするとしている。
PETが衣類や食品トレーなどに再生されると最終的に焼却処理されるなどリサイクルの輪が切れてしまうため、一番の肝は「ボトルtoボトル」の水平リサイクルをすること。同社は15年にリサイクルPETを使用開始、20年には「い・ろ・は・す天然水」に100%リサイクルPETボトルを導入するなど「ボトルtoボトル」を28%達成し、さらに21年にはコカ・コーラ、ジョージア・ジャパンクラフトマンにまで採用幅を広げる。22年には50%を達成し、30年には100%サステナブル素材の使用を目指すとしている。
また、容器の軽量化によってコカ・コーラ700mlPETでは前年比15g減の27gとし、ジョージア・ジャパンクラフトマン500mlPETでは同2.5g減の17gとするなどほかの飲料でも推進し、プラスチック(PET)使用量のさらなる削減を図っていく。併せてラベルレスボトル製品の導入拡大していくなど使用量削減も図っていく。
●「コープこうべの環境チャレンジ目標“エコチャレ2030”と『地域・組合員と進める食品ロス半減』」 益尾大祐生活協同組合コープこうべ執行役員
コープこうべは、阪神・淡路大震災の翌年1996年に「コープこうべ環境憲章」を策定し、環境問題への取組みを加速させてきた。同憲章の基本理念は、環境問題を生協運動の根源的課題として先進的な取組みを積極的に展開していくというもの。2018年、SDGsを参考に環境憲章の取組みをさらに強化するために「食品廃棄物を半減」「プラスチック使用量を25%削減」などを目標とする独自の“エコチャレ2030”を策定した。
食品ロス半減では、「もったいないプロジェクト」「てまえどり」「食品リサイクル」「フードドライブ」の4領域で展開。「もったいないプロジェクト」は意識改革やシステム改革によるロス削減によって20年には前年比1億7000万円の廃棄ロス削減を実現している。17年に地域組合員の呼び掛けから始まった、その日に食べる食品は手前から取ってほしいという運動の「てまえどり」は、翌18年に神戸市と共同実施した「食品ロス“バイバイ”キャンペーン」で運動が本格化、現在はコープ全店(150店舗)で推進している。食品リサイクルでは、店舗・食品工場から出る食品加工くずを堆肥化、その堆肥で野菜を栽培して、再び店舗で販売する食品リサイクルループの仕組みを1998年構築。現在、年間約234tの野菜を生産、再びコープの店舗に供給している。フードドライブは、組合員過程で発生した余剰食品を預かって、フードバンクや社会福祉協議会を通じて、地域の子ども食堂などに渡すなど善意により循環できる仕組みを構築した。
もともと環境的な視点での食品ロス削減を目指して始めた取組みが、善意による地域の助け合いの要素が加わり、さらにSDGs要素につながる広がりのある取組みに発展している。
●「地球環境の負荷軽減に資する実現可能な容器包装のあり方」 櫻庭英悦EPAC代表理事
食品ロスの削減に求められる容器包装は「品質・鮮度保持機能の向上」といえるが、安全性の確保や環境への配慮が大前提だ。現在、プラスチックごみ問題とCO2問題がまぜこぜに論じられているが、プラごみ・海洋汚染問題は「生分解性プラスチック」に、CO2削減問題は「バイオプラスチック」にそれぞれ切り替えることで改善の可能性がある。食品の変質を防止するための容器包装を見たときに、生物的変質を防止するのにはレトルト殺菌や無菌、包装などの包装技術の活用、化学的変質では真空・ガス置換などの包装技術、物理的変質では防湿包装や緩衝包装などで対応できる。青果物の劣化防止にはエチレンガス吸着が有効で、この機能を持たせたプラスチック系の鮮度保持袋によって解決できる。さらに鮮度保持袋に生分解性機能を持たせれば環境負荷を低減できる。
CO2の排出を抑止するのに効果を発揮するのが「炭素税」のような税制で、日本ではCO21t当たり289円だが、環境先進国のスウェーデンでは産業用が1万2640円、標準税率が1万5670円という高い税金を課している。近い将来、地球温暖化対策が十分ではない国からの製品輸入に対して「国境炭素税」として関税などを追加負担求める動きがあるので早急な対策が必要であろう。