トップの視点:惣菜サミット・小平昭雄会長 惣菜こそSMブランドの主役
◇惣菜サミット会長、日本惣菜協会相談役 小平昭雄氏
◆「この店はコレだ!」と言わせる看板商品が必須 値上げトレンドで外食との競合が激化
近年、目覚ましい発展を続けている中食市場。中でもスーパーマーケット(以下、SM)の惣菜・弁当(以下、惣菜)は、かつて売り物としてきた利便性や価格訴求の枠組みを超え、外食専門店に匹敵する本格的な品質を提供し始めている。その旗振り役としてSM惣菜の改革に努めてきたのが小平昭雄氏だ。SM惣菜の手本とされる「ヨークベニマル」と「ヤオコー」で手腕を発揮し、現在は「惣菜サミット」の会長として各方面で指導に当たる小平氏にSM惣菜の現状と展望を聞いた。(岡安秀一)
●惣菜の実力でSM集客を喚起
–SM惣菜の現状は?
小平 惣菜は、まさにSMの主役に発展した。そのSMの実力を如実に示す中核の位置付けにある。かつてSM売上げの惣菜比率は6~7%だったが、現在は11~13%に躍進。しかも粗利率が約50%と高く利益にも貢献。もはや集客を手伝う便利な惣菜を卒業し、惣菜の実力で集客を喚起する位置付けにあり、SMの集客に欠かせない売場の要に昇格している。
品数、品質、価格の追求がSMの本質であることに変わりはない。しかし本質の付加価値アップを突き詰める方策は限られ、ともすれば各社とも互角で差別化が難しい。対して惣菜は、料理のオリジナリティーを打ち出し、オンリーワンの差別化を実現し、独自のストアブランドを創造できる。惣菜の実力がSMの明暗を分けると言って過言ではない。
●値上げに見合う価値向上を
–SM惣菜の商品開発の傾向は?
小平 原材料と人件費の高騰を背景に総じて値上げの傾向にある。そして一方は「値上げするなら価値も上げよう」と努める店、もう一方は「原価高分だけ値上げすればよい」と割り切る店。同じ値上げでも能動派と受動派に二分化している。残念ながら市場全体がボトムアップするよりも、ストアブランドの優劣や勝ち負けが見えてきた感じだ。
–今後の行方は?
小平 今後も値上げせざるを得ない状況が続くが、そうなると価格帯の垣根が外れ、同業者よりも外食との本格的な競合が始まる。店内調理による作りたてのおいしさ、専門店レベルの調理技術が問われることになり、すでに消費者もそれを待ち望んでいる。中でも惣菜売上げの約3割を占める弁当商品は、398円は498円に、498円は598円にと値上げ傾向にある。今後は698円や798円も十分にあり得る。その価格に見合う価値を提供できるかが課題だ。SM惣菜は本格的な成熟期を迎え、これまでの経験・知識・技術が試され、本物の価値を提供して値上げできるSMだけが勝ち残るだろう。
–低価格志向は?
小平 低価格を売り物にする店もあるが、かつてほどの勢いはない。弁当で例えれば、基本的に1人が一度に食べるのは1食。弁当が198円や298円だからと一度に2個食べる人はごく少数。経済的理由による需要は根強いだろうが、それがSM惣菜の潮流になるとは思えない。お客は「安価で便利なSM惣菜」を卒業して、「本当に価値ある本物のおいしさ」を求めている。食欲を満たす「安価でそこそこ」ではなく、頭脳を納得させる「高価ゆえの価値」を追求すべきだ。
●野球のレギュラーと同じ
–今後の有効策は?
小平 まず実行すべきは主力商品の絞り込みと品質改善だ。これまでのSM惣菜は、売上げアップと集客の間口を広げるため、やたらと商品を増やしすぎた。良く言えば「何でもあって便利」だが、悪く言えば「何もかも中途半端」。いくら品揃えが便利でも、品質と価値が平凡なら、お客は飽きて離れてしまう。もっと「この店はコレだ」と認識させる強烈なインパクト、「コレを買いに、この店に行く」と言わしめる圧倒的な看板商品が必要だ。
–具体的な戦略は?
小平 私は常々、プロ野球にたとえて持論を説いている。プロ野球の一軍登録は29人、ベンチ入りは25人、レギュラーは主力の9人。代打やリリーフなどの役割もあるが、基本的にグラウンドで戦うのは、選び抜かれたレギュラーの9人。そして強いチームほどレギュラーが明確に固定されている。SM惣菜も全く同じだ。レギュラーの主力商品は10品。鶏唐揚げ、豚カツ、ギョウザ、メンチ、コロッケ、焼き鳥など、食卓に上がる頻度の高い定番料理に決まっている。その主力を徹底的に鍛え上げるのが一番の課題。主力10品で惣菜売上げの40%以上、看板商品1品で15%以上を稼ぐのが理想だ。私が昔から事例に挙げている「さいちのおはぎ」のような絶対的なエースを育んでほしいところだ。
●素材惣菜との相乗効果に期待
–その他の注目点は?
小平 昨今はSMの生鮮売場でも惣菜の商品開発が活発化している。生鮮3品(精肉・魚介・野菜)の専門性を生かした「素材惣菜」という新たな分野だ。バランスがよい総合的なSM惣菜とは異なり、素材の品質と鮮度を訴求する直球勝負の試みだが、SMの重層的な魅力を演出する大きな可能性を秘めている。従来のSM惣菜とは店内競合の関係にあるが、切磋琢磨による大きな相乗効果が期待されるところだ。
また近年、ドラッグや酒販など異業種の量販店がこぞって食品事業に参入し、SMとの競合が叫ばれているが、私に言わせれば、まだまだプロと素人の違いがある。その象徴が生鮮3品と惣菜の実力だ。その商品力こそが、異業種参入との圧倒的な差別化を図る、SM優位の決め手となる。
現在のお客は本当の価値をシビアに見極め、安かろう・悪かろうに手を出さない。胸を張って本当の価値を訴求できる惣菜開発、「こりゃうんめえ!」とうならせる本物のおいしさを追求してほしい。
–ありがとうございました。
●略歴
小平昭雄(こだいら・あきお)
1942年、長野県出身。72年「イトーヨーカ堂」の惣菜事業発足に携わりバイヤー就任。78年「ヨークベニマル」の惣菜会社「ライフフーズ」に入社し手腕を発揮。2000年「ヤオコー」に入社。03年、同社の惣菜会社「三昧」の社長に就任し、惣菜事業を構築。ヤオコー専務取締役、三昧会長などを経て14年退社。現在は惣菜業界発展のため「惣菜サミット」の会長職を通じて人材育成に尽力。
《惣菜サミット・組織概要》1997年、SM惣菜担当者が手探りで部門を切り盛りしていたことから、同業者など17社21人で情報交換会「惣菜サミット」を発足。当初の「惣菜業の地位向上、情報共有による業界のレベルアップ」の思いは27年を迎え、会員130社強の研究団体に成長。全国集会は昨年で100回を超えた。カテゴリーが確立したSM惣菜は、SM売上げの10~15%を目指すまでに成長。「惣菜サミット」による人材育成は高く評価されている。
●小平昭雄氏 インタビュー動画
(1)売れる惣菜はスタメン選びから 収録時間3分16秒
https://vimeo.com/manage/videos/804998997
(2)惣菜業界の現状と展望を読み解く 収録時間3分38秒
https://vimeo.com/manage/videos/804999082
(3)成功のカギは惣菜のブランド化 収録時間3分21秒
https://vimeo.com/manage/videos/804999133