タイ・ベトナム市場、インドのコメ禁輸に沸く
インドがコメの禁輸を表明したのは7月20日。長粒米の一種であるバスマティ米(香り米)以外の低価格米について、海外への輸出を禁ずる措置を取った。国内向け供給分が不足気味となり、昨年9月に20%の輸出関税を課したものの一向に輸出が止まらず、国内の取引価格が1年前から11.5%も上昇したためだった。
禁輸対象となったコメは、インドが輸出する全体の4分の1前後を占める。期間や期限などは明示されていないものの、最短でも年末まで続く可能性が高く、混乱は簡単には収束しない見通しだ。今年はエルニーニョ現象の影響で収穫が減るとの観測もあって、国際相場への影響も少なくない。禁輸発表を受けて国際通貨基金(IMF)は、インド政府に対し禁輸の撤廃を要請した。
こうした動きに対し、インドに次ぐコメ輸出国であるベトナムは、値上げや長期契約を結ぶための好機ととらえて売り込みに余念がない。政府発表によるベトナム産米の今年上期(1~6月)の平均輸出価格は1t当たり539米ドルだったのが、インドの禁輸発表を受け早くも600ドルを突破したという。品質の良いものについては、700ドルまで上昇するとの観測もある。
22年のコメ輸出量が769万tとベトナムに肉薄したタイでも、インドの禁輸措置を好機と受け止めている。商務省によると、輸出業者は8月の出荷分について再交渉を開始しており、大幅に増加される見通しだ。市場関係者によると、同月だけで100万tのタイ産米が輸出に振り向けられる可能性があるという。
一時的な輸出の増加は輸出国にとっては短期的な利益になっても、中長期的に見れば国内価格の上昇などリスクを伴う可能性が残る。アジアのコメ価格はこのところ価格上昇が続いており、一部に買い占めも見られるという。また、タイでは国際競争力を増すためにコメの品種改良を進めるなど、これまでに21種の開発に成功。12種について、農業・共同組合省の認証を得て輸出を増やそうとしてきた。こうした努力が水の泡になる懸念が残る。
IMFは、インドの禁輸に端を発した構図の変化が世界市場の価格上昇や不安定感の拡大に拍車を掛けるとして、冷静な対応を呼び掛けている。関係諸国の報復措置についても注視していく考えだ。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)