だから素敵! あの人のヘルシートーク:プロスキーヤー・三浦豪太さん

2004.12.10 113号 4面

100歳現役スキーヤーの祖父、70歳にしてエベレストに登頂した父を持つ三浦豪太さん。自身は全日本モーグル代表選手で2度もオリンピックに出場、また世界が注目した昨年の父の冒険に同行したエベレスト登頂者。これだけの輝かしい記録を持ちながらも、後継ぎはまだまだ挑戦が必要なようで…。「冒険一家3代目」のこれからと身体作り術をじっくり聞いた。

祖父や父の事実を目の当たりにしていますから、うかうかはしていられませんよ。常に自分にチャレンジして人生を有意義にしている見本が、壁のように立ちはだかっていますから。というわけで昨シーズン、モーグルの選手として復帰しました。引退後、競技の内容はめまぐるしく変わっているので、ほとんど新しい世界といえます。でもそこに挑戦していくのが、楽しいんです。

同時に来年2月に『アウトドアスポーツセンター』(仮称)というちょっと変わったスポーツジムを東京・代々木に立ち上げて、僕が所長を務める計画です。アメリカの大学でスポーツ生理学を専攻して研究してきたこと、これまでスキーや山で経験してきたことをトレーニングの実践に移していきたいと。もちろん多くの大学や病院の研究者のデータや知恵も取り入れています。

例えば寝泊まりできる低酸素室。それから八ヶ岳・丹沢・富士山、果てはキリマンジャロ・アコンカグアまで、さまざまな山の環境をトレッドミルやクライミングウオールでシミュレーションする。ジムの中から地球規模のアウトドアが広がるというのがコンセプトです。キリマンジャロなどの海外登山は多くの人にとって、何年も計画を立ててようやく実現する大仕事でしょう。それをこれまで一発勝負で実行してきた。ここでトレーニングしておけば大いに現場の予習ができるし、それに見合う体力や技術を獲得できる。本物の挑戦をする時間やお金が確保できない年月もトレーニングさえ続けていれば、いざという時、すぐに決行できる身体やモチベーションがキープできます。

低酸素室のトレーニングは毛細血管の量が増えるので、日常の呼吸でも基礎代謝が上がり、ダイエットに効果があります。また血圧は最初少し上がった後、慣れて徐々に下がっていく。これが普段の生活でも維持できる。コレステロール値にも同様の影響が出ます。こういった数値も計測し、健康に有効な施設として結果を出していくつもりです。

トレーニングで大切なことは、何のためにしているかをハッキリさせること、目的意識を持つことで、これはエリートアスリートから高齢者や介護の必要な人の機能回復リハビリまで、一貫して言えます。僕の祖父と父は生涯トレーニングをしているわけですが、そこには一生スキーをするとか、エベレストに挑戦するとか明確な目標がある。逆算してそこに近づいています。

それから身体を動かす時に、神経を伝達するイメージを持つことも大切。神経が行き届くようになると、そこに血液が行くようになり、筋肉もついてきます。また筋肉を無駄につけても仕方ないです。選手は体重割りでどれくらいの力を出せるかが問題で、筋肉をつけすぎると重りになる。これは一般の人でも同じです。

例えば何より瞬発力を必要とする競技、ウエートリフターでは六〇キロ級の選手が体重の三倍の一八〇キロを挙げます。この人たちのトレーニングは、三時間のうち二時間は身体を温めるウオームアップ。その後、頭の中で筋肉をピクピクさせて、そこに神経を伝達させる瞑想をする。で、いよいよ最後に二回か三回、自分のマックスの重量を挙げる。最初からまともにやったら、どんどん筋肉がついて階級が上がってしまうからです。

身体と頭はつながっているんだな、という話は有酸素運動でもあります。マラソン中になんだか幸せな気分になるランニングハイ。これは山登りはもちろん、有酸素運動にはみんなあります。ずっと負荷をかけていると身体はそのつらい気持ちに対抗して和らげようとする。そのために麻薬の一〇倍くらい効果があるエンドルフィンというホルモンを出す。

この時、すごくいいアイデアが浮かぶんですよ。パソコンの前に座っていたら絶対浮かばないようなアイデアが…。どうしてかというと、人間は心拍数が一二〇以上になると複雑な思考が非常に難しくなる。と、悩まなくなる。悩む以上に複雑な思考ってないですからね。邪念がとれた上、エンドルフィンの作用もある。そうするとやりたいことを中心にいろんな考えが広がっていくわけです。

6月に『三浦家のいきいき長生き健康法』という、僕ら家族のトレーニング法の本を出しました。これに続いて、今度は『三浦家の元気な食卓』という、それぞれの定番メニューの本を出します。テレビなどで有名になった祖父の特製ドリンクの作り方も載っています。

祖父、父に続いて僕も、特製メニューを作っていかないとなあ。山男だし、以前、料理人目指してゴルフ場でバイトしていたこともあるくらいなので、料理は好きです。朝は納豆と玄米ご飯が定番。夜のリラックスタイムに最近凝っているのはリンゴ酢ですね。お水で割ってテレビを見ながら飲んでます。トレーニング中は脂肪をエネルギーとして使えるよう明治乳業の『ヴァーム』を。山に入ると微量栄養素が不足するので、プラスサプリメントを活用します。

昨年のエベレストで一カ月にわたる道中は、ずっと鍋料理でした。父が漁連とつながりがあったので、貝柱・ホタルイカ・トバ・日高昆布・刻み昆布など、たくさんの乾物を提供してもらいました。豪華な海の幸を先に入れ三〇分くらいダシをとって、その上にキムチとか現地の肉や野菜を入れて。これ、『エベレスト鍋』と称して居酒屋チェーンのメニューに採用されたんです。でも僕らが帰ってきてすぐだから夏始まりで、それでやってみたらコストが高くて、冬になるまでに終わりになっちゃった(笑)。

この定番鍋に加えて、飽きないようにいろいろな味を考えて用意して行きました。ええとカレー鍋でしょ、辛みそ鍋・トムヤムクン鍋・塩鍋・すきやき鍋・酒粕鍋・トマトジュース鍋(上にチーズを乗せる)…。鍋だとただでさえ身体が温まるけど、キムチのカプサイシンでもっとポカポカする。ビタミン・ミネラルはとれるし、そのせいか全然食欲が減らずに登れた。山に入ると食欲が落ちるとみんな言うけれど、マズイものを食べてるからじゃないかな。

父は「七五歳で再度エベレスト!」の目標を掲げていてそれに同行したいし、それ以外の自分の可能性にもチャレンジしたい。K2とかシシャパンマとか世界にはまだまだ滑られていない山々があるので。父が三七歳でエベレスト滑降に挑戦したように、先鋭的なこともやってみたいですね。

モーグル選手として復活したからには「もう一度オリンピック!」という思いもあります。「メダルを取れればいいなあ」なんて年甲斐もなく考えているんだけど、年甲斐のないのは多分血筋でしょう(笑)。

山の魅力にとりつかれた父は家族を巻き込んで「エベレストだ! 七大陸だ!」とやってきました。今度はそれを僕が受け継ぎ、チャレンジを通して、身体の基本となる健康とは何か、加齢とは何かを考えていくことになると思います。

◆プロフィル

みうら・ごうた 1969年、神奈川県生まれ。冒険家・三浦雄一郎さんの次男。81年、アフリカ大陸最高峰キリマンジャロ(5895メートル)を親子3代で登頂&スキー滑降に成功。83年からアメリカ留学。91年、全日本モーグル代表選手に。リレハンメル・長野と2度のオリンピックに出場する。2003年、父・雄一郎とともにエベレスト登頂に成功。04年、再びモーグル選手として大会に復帰した。アメリカ・ユタ大学でスポーツ生理学を学び、現在、東京都老人総合研究所の研究員を務める。

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