だから素敵! あの人のヘルシートーク:シドニー五輪金メダリスト・高橋尚子さん
秋には合宿先の米・ボールダーで右足首骨折に見舞われながらも、持ち前の明るさで前向きなリハビリトレーニング生活を過ごし、春のマラソンに向け、新しいスタートを切っている高橋尚子さん。精神・肉体両面のケガの克服の過程、プライベートのリラックス方法など、お話を聞いてみたい。
今回の合宿ではケガで走れなくなったこともあって、最後の2カ月、監督と選手のご飯を自炊していたんですよ。それで随分和食が作れるようになりました。海外に行くので洋食を食べていると皆さんに思われるのですが、実は日本食中心のメニューを毎日食べています。日本にいる時よりも日本人的な食生活です(笑)。
やはり一番こわいのは貧血なので、ひじき・納豆・レバーはほとんど毎日欠かしたことはありません。その3点をおさえてバランスがとれるよう心がけて。もう1人の選手と役割分担して、メーンが私で、サラダとスープは彼女。毎日そうやって分担を決めていたので、すごくスムーズに作ってました。主食はご飯が多いです。週に1回、軽い練習だけの木曜日は「パンの日」と決めてますが。(いつもと違う)この日は、みんな楽しみにしているんですよ。
大学を卒業してから自炊することがなかったので、こういう機会があったことは良かったです。自分で作って練習をするのは大変なのかもしれないけど、それをやったことで分かったこともあります。いま千葉の合宿所ではおいしいご飯を作って下さる方がいるんですが、やってもらうことが当たり前だったこと自体、すごく嬉しいことだった、大変なことだったと。作って下さる人の気持ちだとか、力があるんだなあ、ありがたいなあと、再確認しました。
いままでは「今日はこれだ♪ わーっ!」と食べていたんだけど、いまは「こういう物がいいんじゃないか」と考えたり。「走れないのだから少しカロリーダウンをする、それでいて体力を失わないためには」と、栄養のことを考えて料理を作った時間がもてたので…。
最初の2カ月は選手だけで行って自分でメニューを立てて練習しました。監督が来るまでに出されるメニューができるよう自分で仕上げていくんです。「おお頑張ったな、行かせて良かったな」と言ってもらえるよう、身体を作っておかなくちゃいけないので、かえってしつこくスタミナを作る長いトレーニングをします。だから監督が来て、話し合いながら練習する方がいいですね。
朝の練習で一番走る時は、朝7時から40キロくらい、ダウンの時間を合わせると50キロ。それから朝ご飯、2~3時間休んでお昼から20キロくらい。それが一番多い練習で、普段は両方で40~50キロくらい。「どうして一度にしないんですか」と聞かれますが、間をあけた方が2回ともいい練習ができるし、朝起きて運動した方が痩せるので。長距離はスタミナを持ちながら体重が少ないほうが有利なので、朝練習する選手が多いです。でも50キロも走るとお腹がすいてしまうので私は集合までにVAAMを飲むのが習慣になっています。あとは個々に自分の体調に合わせて、軽めに食パンを1~2枚とか、ご飯の残りのおにぎりとか。ちゃんとした食事をするのは朝10~10時半からと、夕食です。
練習前のストレッチやウオーミングアップはとても大切にしています。ストレッチは最初はラジオ体操のように立ったままで、身体全体やアキレス筋を伸ばしたりを5~10分。それから床に座って身体を倒したり曲げたり、脚を伸ばしたりが15~20分くらい。特にこれからの寒い季節は外に出ると筋肉がキューンと縮んでしまうので、その前に伸ばしておくことが一番大切だと思います。 「今日は疲労がたまっているから伸びが悪いな」とか、気をつけなくてはならないことが分かります。
アップは試合よりも練習の時の方が長くします。連日の練習で相当疲れた状態ですので、ちょっとのアップじゃ動かない。疲れている時ほど長いアップをするんです。走るのを30~40分、100メートルをちょっと早いペースで4~5本入れて。試合の時はこれから走るのが42キロなので、少し身体を温める程度で、後は冷めないように歩いたり。その分ストレッチを長くしますね。
合宿中のリラックス方法は、毎年自分の中のブームがあります。その年ごとにハマることがあるんですが、今回は料理をするのがすごく楽しいなと思えたので、余暇の時間はレシピをインターネットで探して読んでいたり。あと文庫本を30冊くらい読みました。裁縫も合間によくしていましたね。ランチョンマットを20枚くらい作りました。
ケガをした後は、昼の12時から夜の7時、長い時は8時10分までずっとジムにいて、そこでできることを探していました。エアロバイクを2時間こいで、プールに入って水中ウオークをして、ウエートをして…。そんな生活なので、部屋に帰ってきた時はゆっくりと何かをすることの方がリラックスできたんだと思います。
◆30キロ地点でVAAMの力、実感
VAAMはトレーニングの朝練習の前、必ず飲みますね。40~50キロ走る時は、途中でお腹がすいたな、となると体力が段々と消耗していくことが分かるので、そんな時は10キロごとに。暑い時には5キロごとに飲みます。特に30キロを過ぎて体力がなくなってきた時に飲むと、もう身体で元気になったことが実感できます。動くようになったと。ギリギリの時に飲むと、すごいんだなと分かります。レースの当日は給水ごとにもちろん。アップの時の給水でも飲みます。
発汗性がすごく良くなる。代謝がいい感じに変わっていくということですよね。
◆プロフィル
たかはし・なおこ 1972年、岐阜県生まれ。大阪学院大学を経てリクルートに入社。98年のアジア大会(バンコク)で2時間21分47秒の日本最高記録をマーク。2000年、シドニー五輪で金メダルを獲得。同年10月に国民栄誉賞受賞。01年ベルリンでは、女子としては初めての2時間20分の壁を破る2時間19分46秒の世界最高記録(当時)を樹立。佐倉アスリート倶楽部・小出義雄代表の指導を受ける。現在、スカイネットアジア航空に所属。