百歳への招待「長寿の源」食材を追う:「梅干」

1996.09.10 12号 14面

古来からこの国で身体に良い食品として認められてきた梅干とアロエ。このところキャンデーやデザートなどにも姿を変え、さらにその薬効が注目されている。

(食品評論家・太木光一)

梅干は日本特有の伝統食品で外国にはみられない。平安の中頃から食べられていた記録もみられる。本来は梅の実を塩漬けにしたものであるが、この卓越した薬効が解明された。

梅干は薬用として家庭の常備的な漬け物であるが、効用として毒消し、食欲増進、殺菌、口臭消し、口の中の荒れ止め、乗り物酔い防止、虫下しなど。最近では腸炎ビブリオ、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌などの食中毒の原因菌の増殖を防ぐことも判明した。

この秘密は梅干の中に含まれているクエン酸を中心とした有機酸の効用による。クエン酸の体内の変化をクエン酸サイクルとかクレブスサイクルとも呼ばれているが、クレブス(英国の生化学者)はこの解明で五五年にノーベル賞をもらっている。

クエン酸は血液の酸性を中和したり、カルシウムのイオン化の促進、つまり吸収をよくさせる働きを持つ。またエネルギーの代謝を活発にさせ、疲労物質を体内に残留させない働きを持つ。もしこの回数がスムーズにいかないと焦性ブドウ酸が減少せず過剰となり乳酸に変わる。乳酸は疲労や病気の原因となるもので筋肉内のタンパク質と結びつくと乳酸タンパクとなり筋肉が硬化し肩こりの因となる。

また血液中にたまると細胞の老化、動脈硬化、高血圧、肝臓や腎臓病、神経痛などの原因になるともみられている。

梅干が万能薬として古来から愛用されていたのは、このような科学的根拠による。

梅干は非常に酸っぱく酸性食品のように思われるが、実はアルカリ性食品で、梅干一つで酒一合の酸性を完全に中和するほどの力を持っている。

身体をつねに微アルカリの状態を保つことは健康上大切なこと。

しかも梅干づくりで、加工の段階で何回か太陽にあてて、その過程で酵素も増幅しているのである。形こそ縮んでくるが酸のほかに複雑な酵素も発生してくる。

この一つがピクリン酸である。極めて微量であると内臓を刺戟して疲労回復に有効な働きをすることが判明。クエン酸サイクルだけでなく、このような隠れた薬効も見出され、梅干は古来から保健剤として愛用されている不老長寿食品とも呼べよう。

食生活が国際化する中で梅干は日本人の味覚として愛好されてきた。しかも広い範囲で料理の素材として活躍しつづけている。にぎり飯や病気の時のカユなどには欠かせないものであるが、特性を生かした料理が非常に多くみられ、歴史の味・伝統の味・庶民の味として定着している。

懐石料理をはじめ、口直しやお通しに、また衣をつけた揚げ物などにも使われ、地方銘産の製菓材料に活躍。梅ゼリー、のし梅、梅ようかん、水戸の梅など。その他梅肉あえ、梅びしお、梅肉漬け、煮梅などに欠かせない。

健康志向、自然志向の高まる中で薬効の解明が一段と高まり梅干信者は急増している。

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