センティナリアン訪問記 百歳人かく語りき:兵庫県・緒方裁吉さん(99歳)
結婚生活71年になる100歳のご夫婦が二人暮らしを続けている。ごく普通に、電話で応答し、銀行にも、会合にも歩いて出かける。近くに住む娘さんたちの応援を受けながら、今後もますます元気に2人の生活を続けていかれるに違いない。そう確信できるご夫婦だ。
「100年は短かったですねぇ。知らん間に年を取ってしもてねぇ。ええ、元気なんですよ。どうしてと聞かれても……何もしてないです。ただ、20年前から続けてるんがビタミンEで、医者もこれがいいんじゃないかとは言ってるんですけどね」
温厚で学者肌といった印象の緒方裁吉さんは笑顔で話す。
幕末の蘭学者であり医学者でもあった緒方洪庵の曾孫にあたる緒方さんは、洪庵の開いた「適塾」で中学卒業までの幼い頃を過ごした。2階建て町家風の建物は、急な階段が三つもあり、迷い子になるほど部屋数が多かったそうだ。
現在は大阪市北浜のビル街に「適塾記念館」となって復元され、緒方さんは理事として、会合に出席したり、会報に投稿したりして適塾の紹介に努めている。6月の洪庵忌には、洪庵の末裔たちが毎年二十数人集まる。
「医者でないのは私だけ。あとはみな医者です」
商社マンとして仕事一筋に生きてきた緒方さんのスケジュールはいまでもびっしりだ。
「会社関係の昔の仲間と会うわけです。どこへ行っても最長老ですから行ったら乾杯の音頭やスピーチをやらされます。投稿を頼まれたりね。同窓会? 皆死んでしまいましたから、もう浦島太郎ですね。だけど皆が先輩、先輩って言ってくれます」。
新聞、週刊誌、文庫本と読書は欠かさない。「目はいいですが、最近右の耳がちょっとあきません」と言うが、話をしていてまったく支障はない。
もっかの楽しみは、妻初枝さんと映画を見に行くこと。タクシーなど利用せず、電車で出かける。杖も使わない。
「洋画の方が好きですな、字幕が出るから間違いない。声が聞こえない時があるから」。
「二人揃って病気知らずなのが本当に有難い。家内がいなかったら、一日も生きてられませんよ。何にも出来へんから、自分では」と緒方さん。厨房には? と聞くと、「食器をもって入ります」と笑わせる。
「おとなしくて品行方正の人です。家のことは何もしてくれないけれど、100点満点の主人です」
初枝さんからは最高の贈り物が返ってきた。
(取材協力=NPO法人にっち倶楽部)
◆緒方裁吉さん
【生年月日】1906(明治39)年4月18日
【出生地】大阪
【現在の暮らし】妻初枝さん(91)と二人暮らし
【趣味】映画鑑賞、読書