「なめこ」のとりこ きらめくボウズ頭に魅せられて

1996.10.10 13号 20面

香りまつたけ、味しめじ、そして食感ならばなめこが一番。中華、イタリアンなど外国の料理にはあまり見かけぬ種のキノコだが、日本では椎茸とならんで昔から人気が高く、おがくず栽培が盛んないまは、一年中手に入る。しかし同じ栽培モノでも10月頃に出回る原木栽培のなめこは大きさも味も歯触りも違う。先月のとろろに続く第2弾、日本人の大好物ヌルヌル食材の魅力に迫った!!

「なめこの写真なら、あしたがちょうど撮り頃だ」「でも、あしたは大雨の予報だし…」「だったらなおさらあした来い。雨降りゃなめこはうんと元気になる」「……」

かくして埼玉県秩父郡できのこ栽培を営む鈴木宇延さんを訪ねた。心配された雨は夜のうちにあがりその日は文句なしの秋晴れ。鈴木さんの長女・智恵子さんの後を追ってぬかるんだ山道をどんどん進み、たどりついたのは木々生い茂る崖の途中。

「もし見つかってはと思ってちょっと隠してあるんです」と智恵子さん、岩壁に掛けられた黒いシートを丁寧にはがしていく。すると「うわぁっ」、しばし絶句。コケむした岩に立てかけられた黒い木に無数のなめこが群生し、キラッキラッと黄金色に輝いている。木々のすき間から天然のスポットライトが差し込んで、まーるいツルツルボウズたちに反射するのだ。たまらず頭をなでてみた。

ヌル。漢字で「滑子」と書く名のとおりヌルった感触が気持ちいい。美しさもさることながら、その大きさも驚き。直径が四~五センチメートルくらいはあり、それがなめことは思えないほど。加えて味・歯応えともに絶品。単なる味噌汁も鈴木さんのなめこにかかったら大ご馳走に変身だ。

鈴木さんはなめこ栽培に山桜の木を使っている。同サイズに切り出した桜の木を山肌にずらりと並べて、二年間じっと動かさず置いておく。そうして土から水分と養分をあらかじめ桜の木に十分に吸い取らせるのがポイント。「この辺りは猪が多くて、彼らがこの桜の木をいじって動かしてしまうのが悩みの種です」。少しでもずれるとなめこの出来に左右するという。

その他にもサル・リス・シカなどこの山には、野性の動物がたくさん住んでいる。秋といえばキノコ狩りをしたくなる気持ちはみんな一緒のようだ。「サルはキノコの茎だけ食べて傘を残すんです。だから、ア、これはサルの仕業だとわかるんです。でもこの時期一番困るのは頭の黒い動物による被害。人間は未成熟のものまで根こそぎ取ってしまうから…」と智恵子さん。

なめこの魅力にとりつかれ、迷子になったり崖から落ちたり…とはこの時期よく聞く話。夢中になるのもホドホドに、キノコ狩りは森のルールを守ってこそ楽しいものということもお忘れなく。きのこ狩り・きのこ料理なら鈴木さんの観光農園がオススメ! 鈴加園=0494・54・1234

なめこのぬめりには消化を助ける働きがある。また自然のとろみは汁物を冷めにくくし、ボリューム感を出すにも効果的。つい食べ過ぎる秋の鍋パーティーには欠かせぬ食材だ。

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