滋味真求:「満津美鮨」白山下の情緒豊かな味の店

1997.01.10 16号 18面

文京区の白山下に「満津美」という粋な名前の鮨屋がある。

この辺り一帯は明治末ごろより白山花柳界のあったところ。最盛期は戦前、戦後という。当店は昭和一二年の創業なので、白山花柳界とともに栄えた店だ。昨今では創業二、三〇年ではや老舗などという時代だから、この店なんかは立派に鮨屋の老舗である。左右に篠竹の植え込みのある格子戸を開けると、右側にL型のカウンターがあり、店主と実弟とで調理場を切り盛りしている。

旧花柳界の真ん中にある鮨屋なので、初めての客は懐を心配し気後れするようだが、決してそんなことはなく、まっとうな商いをしている。握りなどというものは、もともと庶民的な食物だったのに、魚の値段が高くなり、鮨は値段だけは高級料理の仲間入りをしてしまった。

といってグルグルとベルトの回る何とか鮨では、申し訳ないようだが懐は別としても、何か養鶏場のニワトリがえさをついばんでいるような気がして、どうも食が進まない。旨い鮨が食べたい、といってテレビなどの料理番組に登場してくるような鮨屋では、食べたが最後、帰りの懐具合を心配し、ろくろく喉に通らないような始末。

この白山下の「満津美」は、“それでも旨い鮨が食べたい”という方にお勧めする店である。当主は二代目だがいまが働き盛り。弟夫婦、おっかさんと家族全員で商いをしているので万事にムダがなく、その分お客は適正価格で鮨が食べられるというものだ。

とにかく何を食べても旨いが、お勧めは煮物とヒカリもの。魚なんかは魚河岸で買ってくるもので、鮨屋は手を加えようもないが、煮物、ヒカリものは下ごしらえが丁寧かぞんざいかにより味が変わる。コハダは生臭さがなく、穴子はとろけるように柔らかく、とくに上に塗るツメは甘からず、辛からず穴子の旨味を生かしている。

良い穴子の入った時にぶつかると、穴子の白焼きを出してくれる。これがまたすこぶる旨い。特上鮨二〇〇〇円、上鮨一五〇〇円、並み鮨一〇〇〇円とあるが、カウンターへ座り、店主が握ってつけ台へポンと置いた鮨を食べるのが一番。最近はつけ台の鮨を箸で食べる人がいるが、やはりつけ台の鮨は手でつまむのが旨い。

テレビ番組で高名なさる鑑定家が料理番組に出て、有名鮨屋で、つけ台の握りを箸で食べていたが、鮨屋の親父が情けなそうな顔をしていた。この鑑定家はサンドイッチをフォーク、ナイフで食べるのかしらん。

ところで肝心の勘定だが、カウンターへ座り、つまみをとり、一杯飲んで鮨をつまみお腹がいっぱいになり、一人約六~七〇〇〇円くらい。近ごろ得がたい鮨屋である。酒は褒紋正宗、底ぬけ超辛口、鬼萬歳と飲み助にはたまらない逸品ぞろい。

店内はカウンター一〇席、椅子八席、小あがり六席だが、奥に座敷もあるので法事、集会などの利用も可能。営業時間午前11時30分~午後2時。午後5時~10時まで。定休日は月曜。

場所=東京都文京区白山一‐二〇‐一六。乗り物=地下鉄都営三田線白山駅下車、徒歩五分。

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