味なCMおっかけ話 初恋の味「カルピス」 黒沢明監督初のCM
初恋…ってどんなだっけ。切ない思い? 甘酸っぱい思い? ……そうだ、初恋はほんの少しの寂しさも味わったんだ。…などなどだれもが懐かしく、うれしく、寂しい気持ちにまでなってしまう。
ひとつの「味なCM」が4月から放映される。まだ放映前にもかかわらず、マスコミ界からも注目の作品になっている。それもそのはず、監督、原画とも「世界のクロサワ」こと黒澤明監督が制作、それも黒澤明初CMだといえばもう、話題は十分だ。
竹林の中を走る少女。ためらいながらも追う少年。少女が振り向くと、思わず顔を赤らめ震えてしまう。監督自身の少年時代を回想して描いた自筆絵コンテを、デジタルコンピューターグラフィックスでアニメーション化したもの。監督の初恋のイメージがパッヘルベルの「カノン・ニ長調」をバックミュージックに幻想的に表現されている。
映画の始まりのようなスケールで、たった三〇秒の世界が始まる。セリフは「すてきなことは、いつも夢からはじまった」。実はこのCM、時代を超えて変わらない良いものとしての監督の「カルピス」への思いが、創業八〇周年を迎えるカルピス創業の精神と結びつき出来上がった。
明治43年生まれの監督が初めてカルピスを味わったのは、9歳のとき。多感な少年時代の思い出に、あの甘酸っぱい不思議なおいしさが重なるようだ。
それにしても初恋はなぜ寂しかったのだろう? と考えた。その答えはCMにある。振り向く少女は表情を少しも変えることなく行ってしまうのだ。
「すてきなことは、いつも夢からはじまった」。夢はいくつになっても持てるもの。さぁ、始めようよ、すてきなこと。