飽食の食卓に麦ごはん そして麦が消え身体から食物繊維が失われた
食生活が豊かになったからこそいま「麦」が見直されている。毎日の食卓には麦など入らない真っ白な美しい白米、そして油をたっぷり使った肉料理、魚料理など、ごちそうが並ぶ。飽食の時代と言われ、栄養たっぷりの食事で現代の子どもたちは欧米人に劣らない体型をも得た。それでもなのか、だからこそなのか、いまだ不足している栄養素がある。「麦」が食卓から姿を消したのとほぽ同時に不足しはじめた栄養素、それが食物繊維だ。飽食の時代のいま、食物繊維を多く含む大麦は再び注目を浴び始めている。大麦を専門に扱う全国精麦工業協同組合連合会(全麦連)副会長・加藤欽一郎氏に話を伺った。
食物繊維はご存じの通り数年前までは「必要ないもの」としての扱いしか受けていなかった栄養素。摂取量はここ五〇年あまりの間に減少してきていますが、そのことが脂肪の取りすぎとともに大腸ガンや高脂血症、糖尿病の増加に関係していることが分かってきました。そこで日本人の栄養所要量の第五次改訂で、やっと食物繊維の目標摂取量が示されたのです。さまざまな疫学データをもとに一日成人一人当たり二〇から二五gという具体的な値です。目標値が二〇gに対し推定摂取が約一六キロ四gの不足となります。
そこで大麦が見直されているんです。精白米に比べ食物繊維は一〇倍程度も多く含まれていますからね。他にミネラルやカリウム、カテキンやポリフェノールなどの重要な栄養素も微量ですが含まれます。でもこれらは他の食品でも多く摂れるでしょ。でもなんと言っても食物繊維を多くとるには大麦が一番なんです。
さて、その大麦を日常的に摂る方法と言ったら白米にこれを混ぜて炊く方法ですが、麦めしと言うと多くの人はあまりいいイメージを持たないですよね。そのイメージを打破すべくおいしい麦ごはんの食べ方を説明しましょう。
麦ごはんが白米に比べておいしいとは言えないという印象なのは、保温ジャーと呼ばれる保温機能付きの炊飯器のせいです。炊きあがってすぐに食べれば何ら問題はありません。白米と混ぜて炊くその割合にもよりますが、臭いもなく白米と代わらず食べられます。保温ジャーに入れておくと三、四時間で特有の臭いがあらわれ、色が茶褐色に変化してしまう。こうなると身体にいいとか、ふっとんじゃって嫌になりますね。保温さえしなければ夕方までおいたままでも大丈夫。冷蔵庫に入れておくとか、昔ながらのおひつに入れ替えるとかね。
麦ごはんの上手な炊き方は白米に三割程度の米粒麦を混ぜて白米だけの時より少し多めの水加減にすること。そして三〇分ほど浸水させてご飯を炊く要領と同じに炊飯します。(表1)
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現在は企業給食や学校給食で麦を混ぜたごはんを使用するところが増えました。量としてはまだそれほどではないですが、学校給食では五〇%の学校で実施されています。炊いてすぐ食べるから麦こはん入りだと知らないで食べている子どもも多いんじゃないかな。
昨年の0157騒動は学校給食に大きな影響を与えましたが、給食に麦ごはんを食べている学校とそうでない学校とでは患者数に違いがあったんです。もちろんこれは麦ごはんだけが影響しているとは言えませんが、麦は便秘をなくし腸を鍛えますから関係ないとも言えないと思います。
それに最近の子どもは柔らかい物ばかりを食べるので咀嚼(そしゃく)力が低下していると言われますが、これにも麦はいいんです。麦ごはんは白米に比べ食べづらいですからいや応なしによく噛むようになります。学校給食には持ってこいの食材なんですよ。給食という範囲を超えてぜひ家庭でも挑戦していただきたいですね。
食物繊維と一口に言っても、これには水溶性と不溶性と二種類のものがある(表2)。野菜などには食物繊維を含むものもたくさんあるが、それらはおしなべて不溶性の率が高い。水溶性と不溶性のバランスの良さでもやはり大麦は筆頭に挙げられる。
水溶性、不溶性とそれぞれ同じ食物繊維でもその働きは違う(表3)。
水溶性の食物繊維は消化管内の食物と消化酵素の作用を阻害し、消化吸収を抑制する。このことが糖の吸収速度を遅らせ糖尿病の治療、予防に役立つ。また不溶性の食物繊維は、主に便の主成分となって腸を刺激し排便を促進する働きがある。大腸の通過時間を短縮させるため大腸ガンの予防に役立つと言われている。
量だけでなく水溶性、不溶性のバランスを考えることは重要だ。
量、バランスとも考えた。あと一つ重要なことは食物繊維は食事の時に他の食品と一緒に摂取しなければ効果は望めないということ。ドリンクなどで摂取するのも確かにひとつの方法だが、効果を期待するのであれば食事で摂取するよう心がけたい。
そうなるとやはり麦めしやその他の麦料理に熱い視線が注がれることになる。
コンビニやガソリンスタンドなどの店頭でコメが並ぶ様もすっかり定着した。コメ売場を見ると意外なことに押し麦、白麦米、米粒麦、胚芽押し麦など、麦関連商品が種項多く並んでいる。麦関連の商品を多く持つ(株)はくばく(山梨県、0556・22・8989)は麦ごはんの効果を第三二回日本栄養食糧学会・小柳達男氏の発表から説明してくれた(表4)。
また米麦混炊の利点として、コメと麦ではタンパク質やアミノ酸の種類も異なり、コメに少ないビタミンやミネラルが麦に多いので両方を合わせることで栄養のバランスが良くなる。また、コメだけのごはんよりふんわりとふくらみ、口当たり軽くさっぱりとし、胃の負担が少なく消化が良くなるということだ。