滋味真求:うなぎを焼いて300年「やまだ」 ゲンのよいグランプリうなぎ
「グランプリ、うなぎ、老舗」とくると何か三題噺のようだが、映画監督の今村昌平さんが店でうなぎを食べたすぐ後に、自作の映画『うなぎ』がカンヌ映画祭でグランプリ受賞との朗報が入った、というゲンの良いうなぎ屋の老舗が千葉県佐原市にある。
この店は三○○年の伝統を誇るうなぎ割烹の『やまだ』という店だが、映画『うなぎ』のロケ地でもある佐原市の中心にある。一階は椅子席と小上りの手軽な食堂だが、二階は三○畳の大広間や六畳や四畳半の個室もある。
万事にてきぱきとしたお内儀の輝子さんの話では、今村監督のグランプリ受賞を聞きつけてお客が立て込み、6月のアヤメから始まり7、8月の暑気払い、土用の丑と、今年は千客万来で嬉しい悲鳴という。『うなぎ』の題名の映画を撮って、うなぎを食べてグランプリとはちょっと出来過ぎた感じもするが、お内儀の「うちのうなぎを食べて……」の言葉にもリキが入っていたので信じることにした。うなぎは滋養強壮の食べ物と思っていたが、意外なところで効力を発揮するものである。
佐原市は利根川の水路を生かし古くから栄えた街だが、銚子港に近いわりには川魚が名物の街である。『やまだ』の先祖は元禄時代からこの地に居を構え、連綿と地元の川魚を商ってきたわけだが、ただいまではうなぎの天然ものは入手不可能な現状で、やはり供給の安定している養殖ものを使っているとのこと。それでも11月頃になると、地元利根川の天然の下りうなぎが入荷するので、脂のほどよく乗った天下の滋味を味合うことが出来るという。もちろんうなぎの値も時価とのことだが、満天下の老饕諸氏、ぜひにご賞味あれ。
またこの店はお新香のうまい店である。お内儀の話ではきちんと糠漬けを漬けているとのこと。近ごろでは都内の有名店でもお新香はよそから買い求めている時代に、見上げたものだ。うなぎ屋のお新香がうまいなどというと、なにお!といわれる向きもあるが、うなぎ屋のお新香は昔からうまいものと相場が決まっているそうだ。
座るとすぐにかば焼きが登場してくる昨今のうなぎ屋と違い、客が来てからうなぎをさばき、白焼き、蒸しあげそしてタレをつけて焼き上げるかば焼きは時間のかかるものなので、客はお新香で一杯やりながらうなぎの上がってくるのを待ったとのこと。良き時代があったものである。
手軽にうなぎを食べるのであれば調理場の見える一階が便利で、値段は、並うな丼一四五○円。上うな丼一九○○円。並うな重一六○○円。上うな重一九○○円。並白焼き一三五○円。上白焼き一六五○円。鯉こく八五○円。いずれもきも吸いつき。ビール中びん五五○円。お酒五○○円。
ゆっくりと食事を楽しむのであれば個室のある二階がお勧め。万事に行き届いたお内儀が切り盛りしており、料理内容も応相談となる。
営業時間午前11時~午後10時。休日は月曜日。住所・千葉県佐原市佐原イ四五七。電話○四七八~五二~四三七五。