百歳への招待「長寿の源」食材を追う:きな粉
正月料理には欠かせない黒豆(黒大豆)。純粋大豆を微粉にしたきな粉。健康食品の代名詞である豆製品、豆料理の神秘の力を数値でみてみた。
(食品評論家 太木光一)
きな粉は自然食品・健康食品・長寿食品の代表。純粋の大豆を微粉にしたもので、無添加・無着色食品と呼べよう。大豆そのものはあまり消化の良い食品ではないが、きな粉にすると消化率が抜群に高くなる。
このきな粉は伝統食品の一つで江戸初期から普及し始めた。慶安の頃、駿河の安倍川原の茶店できな粉餅として売られたのが始まりである。やがて参勤交代の大名や上り下りの商人たちの評判となり、いつしか街道の名物となって人気を呼んできた。その後、水戸の「吉原殿中」、熊谷の「御家宝」、東京・亀戸の「くずもち」などきな粉を原料とした菓子が江戸時代に生まれ、現在に至るまで伝えられている。
大正時代に入って上新粉メーカーが、きな粉の製造を始め、ある程度の量産化が進み、昭和15年頃まで全盛時代が続いた。戦時中は原料難で製造されず、自由になったのは昭和36年以降のことである。
きな粉の成分をみると、一○○グラム当たり、水分五、タンパク質三五・五、脂質二三・四、糖質二六・四、繊維四・六、灰分五・一(いずれもグラム)。無機質ではカルシウム、鉄、カリウム、亜鉛、銅などが非常に多い。
高カロリー・高タンパク・高脂肪の栄養食品と呼べる。植物性脂肪であるからコレステロールは皆無。このため欧米のヘルスショップ(健康食品専門店)では売れ行きの良い食品のベスト10に入っている。スープや手作りケーキ、クッキーなどに入れられている。
カルシウムは農産品の中では多い部類で、切り干し大根や小松菜に次ぐ。一○○グラム当たり二五○ミリグラムが含まれているが、牛乳の一○○ミリグラム、ヨーグルトの一二○ミリグラムよりも多い。神経を鎮静させ、骨や歯を強くする作用を持つ。また鉄の九・二ミリグラムは鶏レバーの九・○、小麦胚芽の六・六、卵黄の四・四、ほうれん草の三・七ミリグラムよりも高い。鉄分が不足すると貧血を招き、生活力も低下する。
さらにビタミンB1にも恵まれている。不足すると気分的にイライラを招き、疲労や食欲不振の原因となる。含有量でみればロースハム・ベーコン・牛レバーなどよりも多く、ベスト10に入る。大豆が畑の肉と呼ばれるゆえんである。
その他微量成分でみれば、亜鉛と銅に恵まれている。亜鉛は味覚障害や皮膚障害を防ぐのに役立つ。銅は鉄の吸収を良くするばかりでなく、貧血を防ぎ骨折防止にも役立つ。
またきな粉は、「ファイバーフード」と呼べるほど繊維分が多い。動脈硬化、大腸ガン、糖尿病、胆石、便秘、肥満など近代病に卓効のあることはイギリスのバーキット博士の研究によって立証済みである。
きな粉の特性は優れた栄養食品でありながら価格の安いことにある。日本人の口によく合う。長寿者にきな粉の愛用者の多いのも良い食品の裏付けといえる。
きな粉は香ばしさが生命。乾燥させて保存することが大切だ。日頃の愛用をお勧めする。