だから素敵! あの人のヘルシートーク:女優・岩下志麻さん
今回のヘルシートークのお客様は、日本映画界にこの人ありという存在の大女優、岩下志麻さん。この何年かは、迫力満点の「極道の妻たち」シリーズのイメージが強かったが、今年二月には初のコメディー映画「お墓がない!」で、実に意外なコミカルな側面も披露するなど、また新しい境地に挑戦。その素顔と私生活を聞いた。
このところ、恐い役とかとっつきにくい冷たい役とかが続いていたので、今回の「お墓がない!」は、嬉しくて即座にお受けしました。初のコメディーです。こんな企画はめったに巡り合えないので、“ぜひ、やらせてください”と言って。
作品中では三役を演じました。桜咲(さくらざき)節子という女優と春日アキというお婆さん、それに節子が劇中で演じる小川道子というお母さん役です。そのキャラクターをその都度変えなければいけないのが、難しかったですね。私は与えられた役の気持ちを引きずってしまうところがあるんです。「極道の妻たち」の撮影中は、普段から声が低くなって外股で歩いていたりとかね。それはいつもそうなんですが、今回ほど意識して感じたことはなかったです。
例えば、お婆さん役の撮影の日は、朝から駄ジャレばかり飛ばしていました(笑)。私ってこんなコミカルな人間だったんだと思えるくらい、明るい朝なんです。それが、女優の役の時には、背筋がシャンと伸びていて毅然とした自分を感じる朝。劇中劇のお母さんの日は、病気の娘を持つ母親ですので起きてすぐ沈んだ気分になったりして。
物語は女優、桜咲節子が自分はもうガンにおかされていてあと半年の命であると勘違いしてしまうところから始まります。天下の大女優には世間に知られていない孤独な生い立ちの過去があって、先祖代々のお墓なんて持っていないんですね。それで死ぬほどお墓が欲しいと思う。で、お婆さんの姿に変装してお墓探しの旅を始めるんです。
縦糸に生と死という問題があって、横糸には世間のしがらみに縛られてみんな生きているけれど、もっと自由に生きていいんじゃないかという大きなテーマがあるんです。その中に涙と笑いがあって。
私自身のお墓観ですか。漠然としていますが、岩下家も篠田(夫で映画監督の篠田正浩氏)家も、こじんまりとしたお墓があります。私は篠田家にお嫁にきたわけですから、そこのお墓に入るんじゃないかしら。映画のように散骨で海に撒かれるのもいいですね。だけど、私は泳げないのでちょっと(笑)。でも狭いところに閉じ込められるより自由に開放してほしいというのは、心理的に分かる気がします。
生と死という意味では、阿久悠さんの御本を映画化した「瀬戸内ムーンライトセレナーデ」という作品にも出させていただきました。敗戦後の日本をテーマにした内容で、戦死した長男の遺骨が帰ってくるのですがその箱の中身が歯ブラシだったことが最後に分かってしまう、そんな物語です。
戦争が終わった時、私も生まれてはいましたがまだ子供でしたので、この映画の撮影を通して初めて、あの時代を生きた人たちというのは本当にすごい体験をしたんだなということを知りました。長男を失ったお母さんはどんなに辛かったろうと。やはり平和というのは何より大切なことですし、そのために馬鹿げた戦争はするべきではないと痛切に思いましたね。
私はこうして仕事をしていますが、仕事以上に家族が一番大事だと思っています。家族の愛が私を支えてくれている、それが分かっているからです。
食事の献立にも気を配っています。例えば夫はある程度の年齢になっています。中年になるとコレステロールが増えますでしょう。ですからコレステロールの少ないものを献立の中に取り入れるとか、栄養のバランスを考えるとか。
夫は本来肉が好きなものですから、偏らないようにあえて肉よりも魚、野菜類を食べるようにさせています。また、植物性タンパク、とりわけ豆腐は毎日食べるようにしています。
私自身気をつけていることですか。ナッツとチョコレートが好きなんですけれど、食べると吹出物が出るので食べないようにしています。あと、果物は肌にも身体にもいいということですので、毎日とります。野菜もいろんな種類のものを配分よくとっています。
悪女役とか、普通の人の日常生活からかけ離れた非凡な役も多く演じています。実際、極限状態におかれた人間の異常な部分とか演じることに、女優としては強く惹かれますね。けれど、逆に日常生活は本当に平凡に送っています。だからこそ映画の中で自分と全然違う人間を演じるのが楽しいんでしょうね。
映画のドラマ性そのままに自由奔放な生活を送る女優さんもいますが、私の場合、私生活がそんなだったらもう芝居に使うエネルギーはなくなってしまう、そういうタイプです。穏やかな家庭があるからこそ、仕事が充実する。夫が真面目で建設的なタイプであることも本当に恵まれていると思います。だからこそ、家族との生活や食事、大事にしていかなくてはと思うんでしょうね。
●岩下志麻さんのプロフィル
一九四一年東京・銀座生まれ。高校在学中にNHKの「バス通り裏」に出演して女優の道に。その後、松竹入りし、一九六○年「あの波の果てまで」でスターの座に。映画は「五瓣の椿」「雪国」「心中天網島」「はなれ瞽女おりん」「極道の妻たち」「写楽」など多数。テレビドラマでも活躍。夫は映画監督の篠田正浩氏。