ザ・ニッポン地方発 南紀・すさみ「ウツボ」
羽田空港からジェットの直行便が昨年春開通したので飛行時間五○分余りで、あっと言う間に南紀白浜空港に着いた。すぐに車に乗り換えて走り出すと、和歌山県の南端にある南紀白浜は温暖で暖かく、もう春が始まっていた。
海岸線に沿って国道を勝浦、新宮方面に走り、目的のすさみに着く。漢字で「周参見」と書くが読みにくいため三年前から、ひらがなにしたそうだ。小さい湾のすさみ湾はいまはとんぼ漁が真っ盛りで、にぎわっている。学名は尾長まぐろで、海の上をまぐろがとんぼの羽のように泳ぐので、この辺ではいつのまにか“とんぼまぐろ”と呼んでいる。
すさみ湾の近くの大五水産の田所さんは代々漁師で、全国に季節折々の魚の直送を手広くしているが、その中でも隠れた特産品として有名になったウツボの話は面白かった。
穏やかな海風が吹く砂浜にはあちこちに開いたウツボが干されていた。内臓が臭いので手早く頭と内臓を取り、洗って薄い塩水に漬け、水気をとって形を整えて、天日に干すのだという。
家庭では干したてを一口大に切ってカラ揚げにしてしょう油をつけて食べるが、最近は色々工夫されて、佃煮にしたり、細く切ってから揚げて甘辛に味をつけたり。酒の肴として、土産店でも人気になっている。冬場の漁で漁獲量は少ないが、早春に干し上がったばかりのウツボの、独特の香りと味がくせになり毎年注文があるというのも分かるような気がする。
私は作りたてのウツボの佃煮の旨さが忘れられず、見ための姿、形の悪さからくる嫌なウツボのいままでの印象を一掃することが出来た。
(自然食料理人・田村匡世)
●干しウツボのカラ揚げ
〈材料〉干しウツボ1~2枚、粉からし大さじ1、酢大さじ3、しょう油大さじ2、揚げ油適量
〈作り方〉(1)ウツボは一口大に切り中温で揚げる。(2)粉からし、酢、しょう油を合わせ、からし酢じょう油をつくる。
●干しウツボの揚げ佃煮
〈材料〉干しウツボ1~2枚、調味料(酒大さじ2、砂糖大さじ2、しょう油大さじ2、みりん大さじ2、水飴少々)、ダシ汁1カップ、揚げ油適量
〈作り方〉(1)干しウツボを長さ3センチの細切りにし、中温で揚げる。(2)鍋にダシ汁、調味料を入れ沸かし、少し煮詰めたら、揚げたウツボをからめる。