「マクロビオティック」長寿食7つのルール、クシ財団・久司道雄会長に聞く

1999.01.10 40号 12面

アメリカのボストンに、西洋医学が見放した患者を「マクロビオティック」という食療法で救っている日本人がいる。噂を聞きつけ多くの患者が彼に救いを求め、助けられているという。日本人でありながらその名声は日本よりもアメリカをはじめヨーロッパ各国での方が遙かに高い。ガン・エイズさえも克服できるという食療法「マクロビオティック」とはどのようなものなのか、その日本人、久司道夫氏に話を聞いた。

「現代の食生活が本来人間が持つ抵抗力や免疫力といった力を弱めてしまったんです。アメリカだって肉や乳製品、加工食品などを食べるようになったのはここ五〇年から六〇年くらいのこと。その前は黒パンやトウモロコシ、穀物をたくさん食べていました。私のいうマクロビオティックとは、その土地や風土に合った食べ物を食べ、そしてライフスタイルを元に戻すということです」。

マクロビオティックとは聞き慣れない言葉だが、ギリシャの哲学者ポクラテスが「自然の秩序と調和のとれた生活をすることによって、健康と平和な心が保たれる」と主張したことから始まり、自然食によって健康と長寿が保たれるという解釈に至ったものという。

現在は医学用語で“長寿食・食養生法”などと訳される。

具体的にその食療法は(1)主食は主として穀物(特に玄米、他に麦、稗、粟など)、適度の豆類と未精製のパン、うどん、そばなどを時々加える(2)野菜は有機栽培で旬のものを選ぶ。海草はなるべく天日干しのものを(3)できるだけその土地でとれたものを(4)なるべく丸ごと食べる(5)長期天然醸造の調味料を使う(6)バランスを考えて食べる(7)よく噛んで、腹八分目を目安に食べる‐‐といった七つのルールがあるという。さらに食材については地域により異なってくる。アメリカの食事指導とアジアとでは違ってくるわけだ。その土地で元々食べていた食事に戻すということが肝心だという。

アメリカを中心に現代医学で見放されたガン、エイズ患者が久司氏のもとでマクロビオティックを実践し回復している。

「もちろん私のところに来られた患者さんの中には亡くなった方もいらっしゃいます。でも大半は元気に仕事をしていますよ」。現在久司氏のアシスタントとして働くルイ・トンプソンさんも乳ガンを克服した一人。彼女は「私がこうしてここでお話ができることはマクロビオティックのおかげです。乳ガンを宣告され私は久司の指導を仰ぎました。そして一度はガンが消えたんです。しかし食事を元に戻したとたん再発するという経験をしました。いま元気な私を医者は奇跡だと言うけれど、私は決して奇跡ではなく自分で治したと思います」と語る。

マクロビオティックは、人の性格も変えるという。久司夫人のアヴェリンさんは「最近は日本でも少年の犯罪が目立ちますが食生活を改善することで本来の穏やかな性格に戻るんですよ。事件を起こすとその家族も本人も可哀想でしょう。なんとかマクロビオティックな食事をさせてあげたいと思います」と語る。

その話の通りマクロビオティックにより凶悪な囚人の性格を変えたという実績がある。ポルトガルのリスボンにある刑務所に収容されていたアル・カポネは刑務所内でも暴れることを繰り返す暴力者。しかしマクロビオティックを知り、面白そうだからやってみようと看守が見守るなか料理講習会を開き、自炊生活が始まる。数日後の朝に変化が起こった。毎朝看守に対して「うるさい」「あっちへ行け」と叫んでいた彼らが「おはよう」と自ら言葉をかけたというのだ。そして彼ら自身もその変化に驚いたと記録されている。

「マクロビオティックや自然食、そしてオーガニックが世の中の主流になり、アメリカの流通業界はオーガニック中心のスーパーが急成長しました。そして最近の欧米社会におけるマクロビオティックの浸透は喜ばしい限り。でも日本での展開に関してはアメリカより五年以上の遅れがあります。もともとマクロビオティックは日本古来の伝統食が基本です。欧米社会がその価値を認めているのに、肝心の日本が自分たちの伝統的な食文化に疎く、いまなお欧米型の食生活を推し進めていることは残念ですね。

それに、欧米人は他人が何と言おうと気にせず進めていくことができる。でも、日本人は本音と建前とか、他人と足並み合わせとかを美徳とするでしょう。だから新しい何かを広げていくのは難しいとは思います。

マクロビオティックを勧めるにあたってアメリカでも多くの食品メーカーや生産者の反感を買いました。肉を食べるな、と言えば肉業界の人たちは当然怒ります。でもそうした中で進めてきました。日本でも同じでしょう。もう一つ大切なことは日本の食卓を作っている食品メーカーの方々が嘘のない商品を作り、販売してくれること。自分や家族が毎日食べ続けても安心できる食品だけを販売すればそれだけでずいぶん改善された食生活になるはずです」。

「国立アメリカ歴史博物館(通称スミソニアン博物館)に久司道夫氏が殿堂入り」。こんなニュースが昨年11月に入ってきた。「米国在住の日本人であり食改善の世界的な指導者である久司道夫氏のマクロビオティックと代替健康法に関するファミリーコレクションを公示することに決定した」というのだ。スミソニアンは世界最大の博物館・美術館の複合体であり、人類に関するあらゆる分野の物品・標本を所蔵している。過去の出来事を解釈し、歴史的な記録を作り上げていく上で重要な目的を持っている。久司道夫氏がアメリカの食文化の歴史の上で欠くことのできない重要な役割を担ったと認定されたことになる。

ヒッピーから口コミで始まったというマクロビオティック、日本ではどのように進んでいくのだろうか。

◆ くし・みちお 1926年和歌山県に生まれる。東京帝国大学卒、同大学院修了後、コロンビア大学院にて国際政治学を専攻。世界平和の実現を目指してアメリカでの活動を開始。1960年より人間性開発のため正しい食事法の普及・啓蒙活動に専念。1994年国連著述家協会優秀賞受賞。現在クシ財団、イーストウェスト財団、(財)ワンピースフルワールド会長。

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