壺酢の故郷・鹿児島県福山を訪ねて 大人の味の純米天然醸造
豊潤な味と香。一二年もののバーボンだとか三〇年もののワインとか、年月を経れば経るほどうまみを増すというのは醸造食品の特徴だが、この壷酢も二年ものより三年ものの方がよりうまい。
黒酢とも呼ばれるこの酢はコーヒーのようなコハク色をしており、味も濃厚。普通の酢と違って、ツンと喉を射すような酸っぱさはなく、ほんのり甘く、控えめな酢の香りがする。この酢に含まれる、旨み成分・アミノ酸は、普通の酢の約四~六倍。酢酸のほか、りんご酸や乳酸などの酸も含まれているため微妙な酸っぱさのプレンド具合がおいしさを引き立てている。
もともと醸造酢造りは四~五世紀ころに中国から伝わったものといわれ、江戸時代には大阪を中心に盛んにつくられた。しかし、この純米天然醸造の酢は今やこの福山の壷酢だけ。「古くからうちの裏にある壷で、代々おばあさんが作り続けていた酢です」(坂元醸造社長・坂元昭夫氏)。
身体によいし、味もよいが、手間がかかる。絶滅寸前の壷酢造りを、復刻させたのが三〇年前。平成2年には鹿児島県のふるさと特産品第一号の指定を受けている。