ようこそ医薬・バイオ室へ:幻のキノコ・マイタケ

1999.11.10 50号 6面

随分前になるが、キノコ狩りに行ったことがある。東京の秋川渓谷のあたりなので、大したキノコが取れるわけではないものの、急斜面を上がったり下がったりアップダウンの連続で、普通の山登りよりも数段きつかった。しんどかった割に、収穫はモミタケ数個とシイタケ数個のみで、狙っていたウラベニシメジは発見できなかった。

知らない人のために説明すると、モミタケはモミの木の根本に生えるオレンジ色のキノコで、焼くと柑橘系の香りがして驚きの味がする。シイタケも天然の朽ち木に生えていたのだが、こちらは市販のものと味はあまり変わらなかった。

それはさておき、キノコには多くの種類があって、食べられるものかどうか、かなり詳しい人と一緒でないとキノコ狩りは難しい。初めて食べるキノコはおっかなびっくりながら、その豊かな味にはいつも新鮮な驚きがある。

ところで、長く「幻のキノコ」といわれていたマイタケも栽培技術が進歩し、ここ一〇年ですっかりお馴染みの食材になった。

具体的にどういうバイオテクノロジーの革新で、この「幻のキノコ」の大量培養に成功したのか寡聞にして知らないのだが、キノコ好きの私にとっては、新しいキノコが気軽に食べられるようになったことは、この上もなく嬉しいことである。

そのマイタケだが、神戸薬科大学の難波宏彰教授著の「がんに挑む舞茸」(法研)によると、マイタケのMD‐フラクションという多糖の成分が特にがんに効くらしい。構造的に枝分かれの多い多糖成分に制がん作用があるということは、既にシイタケのレンナチンや、カワラタケのクレスチンなどが抗がん剤として認可されていることからも知られている。いずれも、その効果は免疫細胞を元気にすることによってがん細胞を殺す免疫賦活作用に寄っていると推定されている。

免疫機能が破壊されるエイズでカポシ肉腫などのがんが頻繁に発生するのは、それだけ普段免疫系ががんの発生を抑えていることの証明でもある。このマイタケのMD‐フラクションがマウスのマクロファージやT細胞、NK細胞といった免疫細胞の数を増やすことが確認されていて、現在ヒトへの応用が試験中である。

また、マイタケの別の成分であるX‐フラクションに、血中のコレステロールの掃除屋である善玉コレステロール(HDL)量を正常にして、総コレステロール値や中性脂肪値を劇的に下げる効果があるという結果もでている。

これらの効果は、キノコ一般に認められるものであるが、中でもマイタケの成分はどうも効果が高いようである。ただし、量が安定的に確保できないために研究できないキノコも多いわけで、毒キノコでさえなければ、もっとスゴイ成分が含まれているかもしれない。 昔は「繊維ばかりでカロリーもない」とバカにされたキノコだが、いまでは、「マイタケを始め、いろいろなキノコをたくさん食べた方がいい」と言いたい。

それと、もっと多くのキノコの人工栽培が成功することを望んでいる。無論、キノコ狩りに行って天然のキノコを探すのも楽しいが、体力的に苦しいし、そもそもおいしいキノコの取れる場所は親兄弟にも教えないという伝統があるらしい。

(新エネルギー・産業技術総合開発機構 高橋 清)

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