だから素敵! あの人のヘルシートーク:俳優・大前均さん
悪役俳優として四五年のキャリアを持つ大前均さんは、スキンヘッドの強面(こわもて)顔に満面の笑みをたたえて、にこやかに出迎えてくださった。「すごい筋肉ですね」の記者の発言に「ほら、まだ鍛えてるから動くよ」と胸の筋肉をムキムキっと。恐るべし六三歳。悪役俳優の魅力を含め多趣味な生活ぶりを伺った。
怖そうですか、そりゃ役に入っていると怖く見えるようにメイクしているからね。僕はメイクも自分でやるんです。悪役俳優になって四五年かな。役によって怖いなりに違ったメイクをしますよ。素顔はそう怖くもないでしょ。悪役っていうのは僕にとって二枚目さんの役より遙かに魅力がありますね。ドモリでやってみようか、片目を潰した役にしてみようか、とかね。
俳優になったのは偶然なんです。昭和33年に明治大学を卒業して、日本ケーブルカーって会社に就職しました。僕はずっと柔道をやってましてね、その会社の実業団チームに入って、最下位だったチームを優勝させちゃったんですよ。それで銀座に繰り出して祝賀会をやっていると中村錦之助さんが同じ店にいらして。運命的な出会いでした。こっちは祝賀会だから豪快に飲んでるでしょ。それを見ていた彼が「おまえ、俳優にならないか」って声をかけてくれてね。突然に。「あすの朝一番で京都に行くから一緒に行こう」って言うんです。酔いも手伝って結局、京都について行ったんです。
京都に着いたら錦之助さんが演技部長さんに「こいつを役者にするから契約しろ」って言いだして。「そんな海のものとも、山のものともわからない奴といきなり契約できますか」って部長さんは言うでしょう。そしたら錦之助さんは「じゃ、オレは全作品を降りて東京に帰る」って。わがままですよね(笑)。オレは隣で見てるだけ。次に所長が来られて「錦ちゃん、いいよ。オレが契約書を作るから」ってね。一本三〇万円、当時の金でね、五本契約で始まったんですよ。
デビューは次郎長映画です。「若き日の次郎長・東海の顔役」ってタイトル、大ヒットでした。僕は新人でしょ。柔道をやってても、芝居のアクションなんてやったことないから本気でやっちゃうんです。セットででっかい船を作ってね、その上で錦之助さんをぶん投げちゃうんですよ。すごい迫力でね。錦之助さんもよく耐えましたよ。
ケガはしょっちゅうでしたよ。相手にもケガさせちゃったしね。高倉健さんは明治大学の合気道部出身で先輩なんですが、健さんと一緒にやった「山口組三代目」という映画では「健さん、本当に殴りっこやりましょう」って言ったら、健さんも「いいですよ、やりましょう」ってことになって。もちろん立ち回りの手は殺陣師がつけますが、面白かったですよ。今はもう治りましたが僕は頭の左上ね、ここを切って、血だらけ。それでも監督がフィルムを止めないんです。投げては起き上がる、の繰り返しでね。そんな時の感情? そりゃ試合をやっているのと同じですよ。腹がたって勝ちたいと思っていますね。
こんなふうに僕は人にものすごくツイているんです。錦之助さんのところから一本立ちした時にも、若山富三郎さんが「おまえ芝居も立ち回りもできるし、おれのところに来い」って言ってくれたりね。ありがたいね。僕は現場でいろんなことを教わりましたよ。
香港映画は二〇日間くらい連続で立ち回りをやるんです。さすがに疲れるでしょ。そしたら疲れが取れるからコレ食べろって連れていかれたのがサルの脳味噌を食べさせる店。牛乳の腐ったみたいな臭いで白子みたいな色です。うまかったですよ。食べてから後で何だったか正体を聞かされて、驚いて口に指を入れて一生懸命吐こうとしたんだけれど、うまいと思って食べた物は吐けない。でもね、食べた後二〇分ほどで疲れが本当に取れた。即効性があるみたいです。
ネズミも食べました。食用ネズミでハチミツで育てるんです。粉をつけて丸ごと揚げて、その上に片栗粉を溶いたあんをかける。香ばしくてすっごくうまかったな。ハチミツだけで育てているから臭みが全くないんです。香港の中華料理って、いいところばかり写すけれど、違うところも取材して写すと面白いと思うなぁ。
僕はね、格闘技をやりながらバイオリンも弾く若者だったんです。高校時代にはリサイタルをやったり。ツゴイネルワイゼンとかね。だから女性にはもてたね。二〇代の数年は二枚目俳優もやっていたんですよ。顔も良かったから。本当だよ、悪役をやるのにボクシングジムで顔を潰して来いって言われたくらいなんだから。バイオリンはいまはもう手が動かないけどね。
それに釣りも好き。鮎のマスターズの選手権も持っています。鉄砲も好きだった。芸能人ガン倶楽部の三代目会長だったんです。そのあとがゴルフ。中村虎吉先生の弟子にしてもらって、一年ほどでシングルになれた。そしたら面白くなくなっちゃって。
それに料理を作るのも好きなんです。僕の店ではダチョウの肉が評判でね、真っ赤で柔らかい肉なんです。たまたま茨城のダチョウ牧場から手に入れることができて、ヘルシーでうまい。
タレも味噌とか入れるとしつこいので、僕はタカラのミリンとキッコーマンの特選醤油と日本酒のいいやつをそれぞれコップ半分ずつ、それを火にかけてアルコールを飛ばす。これがあっさりしててうまいタレなんですよ。焼き鳥にもウナギにもこのタレ。これは築地の料亭の社長に教わりました。僕は干支がイノシシだから何でものめり込んで突進してしまうんだな。
いまは独身。女房をがんで亡くしましたから。生き別れと死に別れは違うというでしょ。死に別れってのは悔やみが残りますね。子供は娘と下が息子、下の子がまだ四歳の時でした。子供には優しいオヤジですよ。「勉強しろ」って言った覚えはないね。「勉強しておかないと損だぞ」とは言ったけれどね。でも、とにかくかわいがりましたから。いま娘は仕事で海外にいますがパパっ子でね。「パパみたいな人じゃなきゃ結婚しない」って言ってますよ。
いまも自分の食べる物は自分で作る。僕はあまり人の作った物を信用してないから。惚れたオンナが作った物ならいいけどね。野菜や海藻を多く食べようとか健康には気をつけてバランスよく食べてます。この前ケガで入院したんです。病院の食事はまずいでしょ。痩せちゃってね。痩せないと脂肪分が多くて手術ができないからしょうがないけれど、退院したときは体重が六一キロ。ベスト体重は一〇〇キロだから、相当痩せました。今は戻りつつあります。
何をやるにも健康が一番だと感じますね。