あした天気になあれ:春の病真犯人はスギ?
今年の春は初めから予想されていたように、スギ花粉の量が異常に多く、花粉症に悩まされた人たちが多かったようだった。いやまだ「だった」とはいえないで、苦労している人も多いだろう。私も数年前までは症状がひどく、毎年3月を挟んでひと月余り、毎日鼻水とクシャミと目のかゆみで夜も眠れず、昼間もボーッとして、仕事に支障をきたすほどだった。ここで「だった」というのは、なぜか五~六年ほど前から症状が軽くなったからである。
もちろんときどきクシャミを連発したり、多少の目のかゆみが出たりはするが、眠れないということもなく、それほど花粉症を気にすることなく過ごせるようになった。特別な治療を施したわけでもないのにである。
初めて花粉症が出たのは三〇代後半。ご多分に漏れずそれは突然やってきて以来一〇年近くおつきあいをすることになってしまった。四〇代半ばに、それまで趣味で行っていた山歩きを職業とすることになり、登山インストラクターとしてみなさんとご一緒に山へ出かけるようになった。
春の山行は秩父、奥武蔵、奥多摩など近郊の低山が多い。そこは、杉や桧の植林のメッカ。電車に揺られだんだん山里に入って行くと車窓の両側には、枝先に茶色とも黄色ともいえるような花粉をたっぷりと貯えた杉、杉、杉。花粉症まっただ中の私には、まったく恐怖そのものでしかなく、何とか杉植林のない春山はないものかと、資料をあさったりもしたものだった。
一年のうち半分以上も山に入る生活になり、そんな季節を一度二度と通り越すうち、ある年、あまりクシャミが出ないうちに三月が終わりそうになっているのにふと気がついた。
以来狐につままれたように、あれほどひどかった睡眠不足に襲われることもなくなり、杉たちに対する敵意もだんだん薄れてきた。
いまでも花粉いっぱいの杉林を通って山へ出かけているのに、軽い症状で済むのはなぜだか定かでないが、でも経験的には花粉症といっても花粉のせいだけではなく、都会の塵芥と絡み合ってのことだとはそれとなく理解できる。
山の空気の清々しさがあればスギ花粉もなんのその、年がら年中良い空気を吸わせてもらえるような仕事に就いていることを、感謝したい春山の季節である。
(日本山岳ガイド連盟
認定ガイド 石井明彦)