だから素敵! あの人のヘルシートーク:パンツェッタ・ジローラモさん

2000.12.10 64号 4面

チャーオ!。NHKの「イタリア語会話」をはじめ、サッカー番組やクイズ番組など、たくさんのテレビ番組で活躍中のパンツェッタ・ジローラモさん。かっこいいマスク、機知に富んだ口調、いつも明るく元気印の“ジローさん”は、老若男女を問わず、広いファン層に支持されている。「食」にも造詣が深く、母国イタリアの食に関するエッセーを数多く発表している。最近は、奥様の貴久子さんと共著で料理レシピ本を出版。なんと、コメ料理の本だという。「自称、日本で一番コメ好きなイタリア人!」というほどで、来日して一一年、日本へ来て食べ物に困らなかったのはご飯があったからと話す。素敵なエネルギーのかたまり・ジローさんの魅力を探った。

僕の健康法は、朝ご飯をしっかり食べること。とくに、欠かせないのがコーヒー。頭がすっきりして、身体に力がよみがえります。以前は一日一〇杯以上飲んでいましたが、飲み過ぎるとカフェインを取り過ぎるので、いまはちょっと控えめにしています。

イタリアにいるときは、朝食は決まってバールで、カプチーノ(泡立てた熱いミルクとエスプレッソコーヒー半々のほんわかと温かい飲み物)とコルネット(クロワッサン似の角型パン。カスタードクリームとワイルドチェリー入り)。充実した朝のひとときが、一日のエネルギーをくれます。また僕にとってコーヒーを飲むことは人と話をすること。仕事の話、家族のこと、ときにヒトの悪口などなど(笑)…さまざまに語り合うんです。身体にも心にも元気とはずみをつけてくれるのが、コーヒーなんです。

なんといっても、おいしいものが僕の元気の秘訣です。

幼い頃の朝ご飯は、カフェ・ラ・テ(たっぷりの牛乳にコーヒー)と固いパン。イタリア人は毎朝フレッシュなパンをその日食べる分だけ買い、もし残ったら次の日の朝ご飯にします。僕らキリスト教徒は、パンは絶対捨てちゃいけないと教えられて育ってきました。ところがある日、マンマ(母)が作ってくれたパニーノを捨ててしまったことがあったんです。(パニーノとは、小型の山型パンに生ハムやチーズなどをはさんだもの。おやつやお弁当によく食べる。最近、日本のカフェでもよくみかける)。そのとき、あまりおなかがすいていなかった僕は、ついポイッと、ゴミ箱に捨ててしまったんです。ところが、その晩、夢の中に神様が現れて「パンを捨てた者は、ひどい目に遭うぞ。キスをして詫びなさい」というではありませんか。それであわてて飛び起きて、ゴミ箱からパニーノを拾って、チューをして、また捨てました(笑)。

以来、パンは残さず食べます。そしてパスタ。日本でもパスタ好きは多いですが、みなさんはどれくらいの量を食べますか? ふつう日本のイタリア料理レストランで出されるパスタの量は一人分約八〇グラムだそうです。一方イタリアはその倍、一五〇~二〇〇グラムといわれます。私のおばさんのように、一日に五〇〇グラムたいらげるツワモノもいます!

僕はおコメも大好き。イタリアではコメはパスタの代わりとして使われます。おいしいコメ料理もたくさんあるんですよ。コメは北部でとれるものなので、僕のような南部の人間にとっては、コメはごちそうです。イタリアのコメは、種類や大きさがいろいろあって、料理によって使い分けられます。イタリア版コシヒカリともいうべきイタリア一のブランド米『カルナロリ』は加熱に強く煮くずれしにくく、リゾットにすごく合う。小粒な『バリッラ』はクリーム状に煮て使うお菓子やとろとろに煮込むミネストラ(スープ)向き。硬質で粘りのある日本のコメは、リゾット・スープ・お菓子などどんなイタリア料理にも最適です。

イタリアへぜひ行ってみて下さい。もし行かれたら、車で南から北まであちこち回るとおもしろいですよ。食べ物の文化の違いがいろいろわかります。ミラノは、東京に似た大都市です。便利だし、仕事はしやすいけれど、僕にとって住みたい場所ではないですね。僕のようなナポリ(南)の人間からすると、「冷たい」印象なんです。

東京も冷たいですね。いま、世田谷に住んでいますが、隣の家の人とはほとんど口をきいたことがありません。イエ、日本に来たばかりの頃は、姿を見かけると「オッハヨゴザイマス」と大きな大きな声であいさつしていたんですが、相手が困った顔をして無視して行っちゃう。それでそのうち、あきらめました。

あと、東京は速い。テンポが速すぎます。これじゃあ、速く年をとっちゃう。このあいだ鏡を見てびっくりしました、「うわあ、シワがこんなにいっぱい増えちゃった!」って(笑)。困りますね。

ナポリの暮らしは、のんびりペース。アパートの住人・隣近所とは、家族同然のつきあいをします。「ちょっと、オリーブオイル貸して」とか「塩貸りるよ」とか。人間がゆったりしているようです。

食事もたっぷり時間をかけていただきます。特に日曜日は、家族みんなが集まる日。マンマは早起きをして、料理を作ります。アパート中からラグー(肉とトマトの煮込み)のいい香りが立ちこめてから、家族みんなで教会に行きます。帰ってきて午後の一時頃から、お待ちかねのごはんタイム。だいたい四時頃まで食事をします。

男たちはなんの手伝いもせずラジオ放送にかじりつきです。日曜日はサッカーの日!、トトカルチョ(サッカーくじ)のことで、もうみんなの頭はいっぱいなんです。五〇億円当たった人もいて、みんな真剣です。本当にイタリア人はサッカー好き。月・火・水曜日の話題はサッカーの結果、木・金曜日になると次週の予想、そして土曜日にくじを買って、日曜日は試合当日。とまあ、サッカー漬けで過ごすのです。日本でもつい先日、サッカーくじのテスト販売が始まりました、楽しみですね。

そして日曜日はもうひとつ、お菓子(ドルチェ)を食べる日でもあります。僕の故郷では、ドルチェは安息日の特別なごほうびと考えるので、普段の日はあまりお菓子を食べず、じっと日曜日まで耐えるんです。だからいっそう、楽しみだったなぁ。

何を隠そう、僕は日本に来るまで、ティラミスを知りませんでした。あれは北部生まれのドルチェなので。イタリア人は食に保守的なところがあって、自分の街でできたもの以外は食べないんです。その代わり、自分のものは絶対一番と思っています。

だから、イタリア人は一番良いものは他国に出そうとしないんじゃないかなぁ。良いものは自分たちの分だと(笑)。最近は日本にもいい品が入ってくるようになりましたが、一〇年ほど前はひどかった。腐ったマスカルポーネチーズが平気で売られていて、店員に言うと「このチーズはこういうものなんです」と言われてしまったことも。現地の味を、そのまま日本に持ってくる、というのはとても難しいことです。だからといって、まずいものを「これがイタリアの味」と思われたら、哀しいです。

僕もイタリア人気質に違わず、自分のものは一番良いものだと思っています。だから、自分のものを“HAPPY”にしておくことはとっても大事なこと。日本のみなさんにも本当のイタリアの良さをお伝えしたいですね。

単なるコメ好きでないのが、好奇心いっぱいな勉強家・ジローさん。イタリアで稲刈りに挑戦したり、世界コメ料理競技会のゲストに招待されるほどのコメ通だ。愛妻・貴久子さんとの共著『お米で新鮮イタリアン』には、イタリア伝統のコメ料理(リゾット・スープ・お菓子など)のレシピとともに、イタリアのおコメフェスティバルや、イタリア最古の精米所のルポなど、おもしろエッセーが満載だ。(講談社刊、一七〇〇円)

◆プロフィル

エッセイスト。1962年、イタリア・ナポリ生まれ。ナポリ建築大学在学中、中部イタリア・アッペンニーノ地方の歴史的建造物の修復作業に携わる。88年来日。聖フランシスコ会日本語学校、明海大学経済学部卒業。90年からNHKテレビ「イタリア語会話」をはじめサッカー番組などテレビ・ラジオに多数出演。主な著書に『パスタとワインと豚のシッポ』(KKベストセラーズ)『パスタは陽気に』(柴田書店)『食べちゃおイタリア!』(光文社)貴久子夫人と共著の『お米で新鮮イタリアン』(講談社)など。

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