だから素敵! あの人のヘルシートーク:映画監督・本木克英さん

2001.08.10 72号 4面

二一世紀最初の夏休みを一〇倍面白くする映画『釣りバカ日誌』シリーズ第一二作が、8月18日(土)から全国松竹系でロードショー公開される。前作からメガホンを取っている、日本映画界期待の若手新鋭・本木克英監督に、今作品の見所と映画作りの魅力について聞いた。

僕も、主人公の「ハマちゃん」と同じサラリーマンです。映画界ではフリーで苦労しながら助監督、そして監督となる人が多い中、僕は松竹の社員として生活を保証された中で仕事をさせてもらっており、自分としてはラッキーだと思っております。

『釣りバカ日誌』の第一作が公開されたのは、いまから一三年前の一九八八年。僕はその前年に松竹に入社し、スタッフとして制作にかかわってきました。入社してすぐ勅使河原宏さん、木下恵介さんという二大巨匠の下につき、監督のあり方というものを学びました。おかげでたくさんの大物の方と接触する機会も得られ、ありがたいことに恵まれた環境の中で貴重な経験を積ませていただいてきました。

映画監督といっても僕の場合、メガホンで怒鳴り散らして俳優に演技指導をするタイプではありません。 映画づくりというのは、監督と俳優のいわば“戦い”。ぶつかりあってもみあって一つのものを作り上げていくんです。でも撮影現場でそれをやって迷ってしまっては、まわりも皆混乱してしまう。それを避けるため、前もって脚本ができた段階で出演者やスタッフとコミュニケーションを十分図り、芝居や演技についてよくすりあわせしておくことを大事にしています。

とはいえ、すべてが事前の打ち合わせ通りには進行せず、主演の西田敏行さん・三國連太郎さんはじめ大先輩に対して、時にいろいろな注文をお願いすることもあります。その場のアドリブでいろいろな新しい演技が生まれてくる、それも大切です。出演者の強烈な個性を自由に引き出し、かつそれに飲まれず、出てきた中で一番面白いものを選び出す、というのが僕の監督としての役割だと思っています。

いつものことながら、見事なメンツが揃ってますでしょ(笑)。今回は、タレント業復帰(!?)の青島幸男さんと、僕の一〇年来の友人である宮沢りえさんにゲスト出演していただくことができました。

青島さんは、言わずと知れた「無責任シリーズ」というサラリーマンものの源流を作った方。いろいろお知恵を借り、大変勉強になりました。また今回は『釣りバカ日誌』の主題歌を作詞作曲していただくこともできました(「とりあえずは元気で行こうぜ」歌=西田敏行)。

とにかく出演者はじめスタッフも経験豊富な方ばかり。脚本の二人(山田洋次さん・朝間義隆さん)も映画監督経験者、三國さんも監督経験がおありで、西田さんは劇団「青年座」で演出も兼ねている、そんな面々をとりまとめるのは、かえって年齢の離れた僕みたいな者がやるのもよいのでは……。というわけで前回の一一作目から監督として起用されたのだと思います。

いま日本の映画界で活躍中の監督は、八〇代の方が多いんです。新藤兼人さん(八八歳)、市川昆さん(八五歳)などのエネルギッシュなお仕事ぶりには本当に心から敬服しています。また「俳優」という職業も、まず第一に健康管理が基本。とくに一流のベテラン俳優ともなると、自己管理法も超一流ですね。

例えば今年七八歳の三國さんはご自身の身体を非常に探求している方で、奥様と一緒にいろいろな健康情報を集め、自然食や漢方など実践されているようです。逆に西田さんは、本能の赴くままがポリシーという方で、疲れたら休むのでなく仲間と飲んで食べて発散するのが健康法のようです。

現在日本の釣り人口は、約七〇〇〇万人いるといわれています。『釣りバカ』ファンには「次はどこで何を釣るんだ?」と釣りのシーンを楽しみにして下さっている方も多いです。今回のロケ地は萩と宇部。映画の中ではトラフグ・メジナ・チヌ・マダイなど日本海ならではの魚たちを、ハマちゃん(西田)、スーさん(三國)が思いきり釣りまくります。撮影中は仕事が忙しくてあちこち食べ歩くことはできませんでしたが、萩名物の夏みかん、それから旅館で出された魚が、最高においしかったですね。

そして今回のテーマは、“ハッピーリタイヤメント”。主人公のハマちゃん、スーさんが勤める「鈴木建設」の元重役・高野さん(青島)という人物が、早期退職を決断し、誰もがうらやむような隠居生活を送り始める……海のそばに住んで好きな釣り三昧、時に友を呼び……。ところがそんな夢のような暮らしは長く続かず、ほどなくがんに倒れ、亡くなってしまうという筋書きになっています。

描いた夢を実現するのは難しく、夢は手にしたとたん儚くも消え去る……少しさびしいようなテーマですが、幸せとはこういうものと短絡的に答えを提示するのではなく、定年後どう生きていくのが幸せか、楽しく見ながら一緒に考えていただけたら嬉しいですね。

映画は、テレビや小説と違います。不倫だ殺人だというストーリーを追うものでなく、日常の一コマの中にひそむ面白さを表現することができたら最高だと思います。 小津安二郎監督の『東京物語』のような。まるで叙事詩を何篇かつないでいくような構成になっています。「喜劇はオーソドックスに見せるべし。脚本は“ものがたり”だけじゃなく“あや”が大事」。いまは亡き松竹大船の先達たちが残した声を念頭において、これからも面白い映画づくりに取り組んでいきたいですね。

◆プロフィル

もとき・かつひで 1963年富山県生まれ。87年早稲田大学卒業後、大船撮影所50周年記念・助監督採用試験に合格し、松竹に入社。木下恵介監督『父』、勅使河原宏監督『利休』『豪姫』、森崎東監督『塀の中の懲りない面々』、栗山富夫監督『釣りバカ日誌シリーズ』などの作品に助監督として参加する。特に木下、勅使河原両監督とは深く交流し、企画・脚本作りの段階から師事する。94年LA・ユニバーサルスタジオ、ニューヨーク近代美術館フィルムスタディセンターなどに留学。帰国後制作プロデューサーとして石井隆監督『GONIN』、山田洋次監督『虹をつかむ男』などを手掛ける。97年『てなもんや商社』で監督デビューを果たし、99年藤本賞新人賞受賞。また『釣りバカ日誌イレブン』の監督に抜擢され、本作でシリーズ2作目のメガホンを取っている。

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