ようこそ医薬・バイオ室へ:60歳女性の出産ニュース
女性週刊誌などで随分報道されているようだが、二〇〇一年7月21日に六〇歳の女性が出産した。アメリカで東洋人女性の卵子提供を受けて、夫の精子による体外受精で妊娠し、三六週目に慈恵医大で帝王切開によって二五五八グラムの赤ちゃんを産んだ。初産であった。
ネットや週刊誌などの情報をつなぎ合わせると、出産した女性はオーストラリアで日本語教師をしていた。そして二〇歳以上年下の同僚男性と五〇代半ばに再婚し、なんとか彼の子供をと望むようになったらしい。
すでに閉経を迎えていた彼女は、紆余曲折を経て、第三者の卵子提供を禁じている日本では体外受精を受けられないことから、卵子提供・代理母出産情報センター(東京)に相談して、アメリカで卵子提供を受けることになった。
そして、アメリカ在住の二〇歳代の東洋人女性に約四〇〇〇ドル(約五〇万円)を支払って卵子の提供を受けたという。アメリカでの健康診断で子宮筋腫が見つかり、数カ月後に同国で手術し、一回目の体外受精に臨んだが失敗。この時も直前に子宮内膜にポリープが見つかり手術している。そして、二回目の体外受精で成功し、今回の出産につながった。この間、ホルモンであるエストラジオールやプロジェステロン、アスピリンなどの投与を受け続けた。
閉経して排卵がなくなってしまっても、ホルモン投与によって子宮の機能が復活することは驚きであるが、出産情報センターがコーディネートした中で、閉経後の出産は四八例もあるという。今回の例は六〇歳の出産ということで、日本人として最高齢ということになるが、今回のケースが飛び抜けて高齢というわけでもなく、五〇歳代の出産は一三例もあるらしい。とはいえ、原則として五五歳までに出産するというガイドラインを設けているというので、困難さの予想はできる。が、この出産した女性は虫歯が一本もなく、骨密度も二〇歳代というから、若いご主人を持つだけにスーパー六〇歳女性なのであろう。
ところで、出産情報センターはネバダ不妊治療センターと提携して、現在年間約七〇組の日本人カップルが渡米し、代理母出産も含めて一六〇人を超える子供が誕生しているという。これは、先にも書いたが、日本では第三者の卵子提供や代理母を認めていないからで、大体五〇〇万円くらいの費用がかかるという。今回提供してもらった卵子は四〇〇〇ドルだったらしいが、これは二〇〇〇年8月に米生殖医学協会の倫理委員会が「卵子の値段は五〇〇〇ドル以内にすべき」という提言があったためかもしれない。その前年、モデルや才媛の卵子がオークションで一五万ドル(一八〇〇万円)で落札されてから、卵子の値段が問題になっていた。特に需要の多い日系人の卵子は高く売買されていたという。
日本では第三者の精子提供については、戦後すぐに慶応大の家族計画相談所から行われてきた歴史があるが、正式に認められたのは一九九六年11月からである。現在では、ネット上でもいくつかの精子バンクを見つけることができ、中には精子提供者と事前に面接できるところまである。
アメリカでは匿名性を重んじるため提供者との接触は禁止されているが、日本では法的な規制がなく、意外な寛容さを見せている。韓国でも日本人向けの精子・卵子の斡旋サービスが始まっており、生殖医療にまつわるビジネスが先行し、倫理や法的な論議は後追いをしている感じである。
妻は「公園デビューの時は目立つやろうなあ」と心配しているが、ま、余計なお世話であろう。
(新エネルギー産業技術総合開発機構 高橋清)