百歳への招待「長寿の源」食材を追う:イチジク
ザクロとイチジクは、ともに古い歴史を誇る果物である。原産地は中近東とみられ、日本に伝えられたのは江戸時代。中国では薬食として貴重視され大活躍している。日本では利用面で劣るのは残念である。
(食品評論家・太木光一)
イチジクはクワ科の落葉小高木。原産地は小アジアともアラビア南部ともいわれ、ヨーロッパで最古の栽培の歴史を持つ果物である。現在ではほぼ全世界に広がり、品種も六〇〇種を超えている。花が咲かずに実がなるため「無花果」と書かれるが、花は実の中に存在する。また別名の「一熟」は一カ月で熟する果物の意である。
幹は湾曲し分枝することが多い。また特性として葉茎を切るとゴム質でタンパク質を含む白色の乳液が吹き出てくる。この乳液は痔の塗布剤や回虫の駆除に利用されている。
分布は温帯北部まで適するが、花の種類、受粉の有無によりカプリ種・スミルナ種・普通種・サンぺドロ種などに分類される。欧米ではスミルナ種が主流で、特に大産地のトルコやギリシャはほとんどこの種で乾燥イチジクの主原料とされる。また特有の風味があるためジャムに加工されたり、ビスケットのフィリングに利用されている。そのほかシロップ漬けや缶詰にもされている。
生果にはフィシンと呼ばれるタンパク質分解酵素が多いので肉を多く取ったあとのデザートとして食べると消化を促進する。またイタリアでは生ハムに冷やしたイチジクを添えた料理は高級料理の一つとされている。
最近ではヘルシーフードとしても見直されている。
中国ではイチジクを薬食とみている。新彊南部・長江以南・山東省・江蘇省などが主産地で卵円黄・小果黄ほか数品種がみられ乾果などの加工用とされている。効用主治として、健胃清腸・消腫解毒・治腸炎・痢疾・便秘・痔瘡・喉痛・疥癬などに効果が大きいとしている(中薬辞典より)。また葉も根も同様の効果が期待される。薬膳食法として、イチジク二五〇グラムを水煎し甘く味を付けて食べると肺熱をとり、声も良くなるとしている。また三個生食すると便秘に良く、一〇個食べると痔にも良いとしている。
イチジクはわが国の場合、生食が主流で一日勝負の製品とされる。この理由は皮が薄くて弱く一晩過ぎると商品価値が落ちるため。愛知・新潟・広島・千葉・神奈川などが主産地であるが、流通量は非常に少ない。むしろ家庭の庭先で手軽に楽しめる果樹としての人気が高い。最近では乾燥物がトルコなどから輸入され、加工用としてジャムほかに利用されている。価格も手ごろであり、薬効も期待される。手近な庶民の果物と呼ぶことができよう。愛用をおすすめする。