ヘルシー企業の顔:日本マイセラ・前田修央代表取締役社長

2003.01.10 89号 12面

「ナチュラルチーズは難しく食べることはないんですよ」。20代でチーズ専門商社の日本マイセラ(株)社長に就任し、今年で8年目を迎える前田修央氏は「食べやすいチーズから食べればいいのです」とやさしく語る。お袋の味がデンマーク産クリームチーズにフルーツを加えたものというほど、小さい時からチーズに親しんできた。創業オーナーである父親の突然の死によって、銀行マンから急遽2代目トップに転身した経歴を持つ前田社長に、おいしくて簡単なチーズの食べ方から、輸入チーズに対する思いまでを聞いた。

社長に就任したのは、一九九五年3月ですので、もうすぐ八年目を迎えます。会社自体は、六七年にチーズ輸入卸として父が設立しました。私は大学を卒業して、四年間は銀行員としてサラリーマンをやっていましたが、父の病とともに日本マイセラの常務取締役として入社、一年間だけ父と一緒に仕事をした期間があり、父の死とともに社長に就任しました。

一年間といっても父は手術や入退院を繰り返していたので、実質は半年くらいでしょうか。引き継ぎらしい引き継ぎもなかったので、社内のシステムなどを把握していくのが非常に難しかった。父は創業オーナーだったので、組織もピラミッド型というよりは文鎮型。オーナーがトップにいて、後はみんな平らな組織というような感じでしたので、鉛筆一本買うのにも社長の了解がいった。私が入社したのが二七歳でしたので、部長などの役職に就いている人は、私より年上の方々ばかりでした。

ラッキーだったのは、取引先が全部海外だったという点です。日本では、相手先の部長や常務などにごあいさつすると、名刺交換を後回しにされることがよくあります。逆にヨーロッパのチーズメーカーは、農家に毛が生えたぐらいの会社が多く、比較的二代目ということでもすんなり受け入れられました。また、日本では創業社長が三〇数年間も一人でやってきて突然亡くなったりすると、仕入れや信用の問題などが出てくるのですが、海外の取引メーカーさんとは家族ぐるみのお付き合いをしていたので、どこのメーカーも温かく受け入れてくれました。

海外には、年四回程度、一回一〇日から二週間くらい出張します。各取引メーカーは、企業というよりも当社のように家業という感じのところが多い。数十億とか数百億円規模のビジネスをされていても、アットホームな会社ばかりです。だからこそ、コミュニケーションや会社の方針の確認、情報交換などが大事ですね。当然電話やFAX、メールなどがありますが、年に数回は顔を合わせに行くことが必要だと思っています。

父からの教えなのですが、その土地に行ったら必ずその土地のものを食べるようにしています。逆に外国の人がこちらに来ても、極力和食を食べてもらいます。同じ食文化を共有すること、これも大切なコミュニケーションだと思います。

私たちの理念は、もともとお客さまに安心して食べていただけるものだけを輸入して、毎日食卓にチーズを載せていただきたいということ。「チーズ・オン・ザ・テーブル」を掲げています。カッコいい横文字のようですが、そもそも三〇数年前にこのビジネスを父が始めた時は、「下駄履きでもチーズを買いに行けるような世の中へ」という思いが込められていました。当時はプロセスチーズしかなかったでしょうから、もっとヨーロッパのナチュラルチーズを日々の食卓に載るような環境にしていくことが理想でもあったでしょうし、現在でも私たちが目指している夢です。

チーズをワインのように難しく奉って、いろんなウンチクやご託を並べるということがよくあります。もちろんチーズは文化も歴史も深いので、そういう楽しみ方は否定しません。それよりも私たちは安心・安全なナチュラルチーズのある生活が重要なことだと考えています。先ほどアットホームな海外取引メーカーの話をしましたが、出所がはっきり分かるチーズを輸入して、顔が見える商品を店頭に並べる、それがチーズ・オン・ザ・テーブルにつながればいいと思っています。

チーズとの出会いは、物心ついた時です。デンマークのクリームチーズが一番最初の出会いだと思います。当時はいまのように個包装などなく一・八キログラムのブロックで、それを母が缶詰めのミカンやパイナップルと一緒につぶしてくれて、パンにぬって食べました。幼稚園くらいの小さい時でしたので、当時では珍しい子供だった。それがお袋の味になっています。だからチーズとの付き合いは長いです。

チーズは、ビタミンを除けば、完全栄養食品といわれていますので、一日二〇グラム(一かけ)でも食べていただきたい。本当はそのまま食べるだけでおいしいのですが、慣れない人は私のお袋の味をおすすめします。果物と一緒ですと食べやすい。最近では、フルーツ入りチーズも登場しています。大人になってから急に食べ始める人は、チーズに対して結構抵抗があったりすると思いますが、身体にいい食品ですので、子供のうちにフルーツ入りなどの食べやすいチーズからスタートすれば、大人になる頃には、白カビでもブルーチーズでも山羊の乳で作ったチーズでも何でも食べられるようになると思います。順番を間違えないように食べていただければ、いろんなバラエティーのチーズを楽しむことができると思います。

私は、料理も自分で結構やります。最近はイタリア産のパルメザンを常備しているので、パスタやリゾットなどにちょっとした味やコクを加えることができます。サラダやオムレツ、さまざまな料理に一手間チーズを加えるだけで新しい世界が広がりますよ。

◆日本マイセラ(株) プロフィル

500種類以上のチーズを船と飛行機で輸入。取引先は、ヨーロッパを中心に世界12カ国。日本ではホテルやレストラン、百貨店、高級スーパーに卸している。デパートの地下などにインストアショップとして、『チーズクラブ』30店舗を全国展開中。チーズについて教育を受けた販売員がおり、種類や食べ方など気軽に相談に乗ってくれる。

◆プロフィル

まえだ・のぶてる 1966年神戸生まれ。89年慶應大学経済学部卒、同年第一勧業銀行(現みずほ銀行)入社。93年日本マイセラ常務取締役就任、95年代表取締役社長就任。36歳。

普段気をつけていることは、なるべく歩くこととビタミンをとるためにフルーツ(野菜)ジュースを飲むこと。好きな言葉は、“ウォームハート、クールヘッド”(温かい心で、頭は常にさめた状態)。「先代はウォームハート、ホットヘッドでパワーがありましたが、会社も100人程度の従業員と40億円くらいの売上げ規模になると冷静さが必要。ただ、気持ちを大事にしないと冷徹な会社になってしまう」。趣味は、読書に料理、パソコン、ゴルフを若干。パソコン歴は長く、社長就任時にはホームページ「チーズ・オン・ザ・テーブル」(http://www.cheeseclub.co.jp)を他社に先駆けて開設。顧客とのコミュニケーションを図る。

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