「脱酸素剤・エージレス」 食品の天敵・カビと酸化を防止

1996.06.10 9号 13面

生の食品であれ、缶詰であれ食品には賞味期限がある。その期限内は食品の品質が保証される。だが、そのために防腐剤をはじめ様々な添加物が使用されていることも少なくない。現在社会において理想の食品とは添加物のない食品ともいえる。まだ一般の消費者にそれほど認知されてはいないが、添加物の使用に見直しをかける技術がすでに開発されている。それが脱酸素剤「エージレス」だ。

人間はもちろん、生物は酸素がなければ生きてはいけない。しかし、この酸素は人間が生活する上での障害になることも多い。食品の変質劣化も酸素によることがほとんどであるといえる。かびが発生したり、虫がわいたり、色が変わったり、変な臭いがしたり。これらの多くはまさに酸素のいたずらによるものである。また、油の酸化によって起こる有毒な過酸化物も当然酸素の作用である。

さらに、食品の香りや味の変化、おいしさにも酸素は極めて悪い影響を及ぼす。

従って、酸素のない状態に食品を置くと、これらの問題は解消され、食品を作り立ての新鮮なままで保つことができるわけである。こんな課題を解決する技術、つまり周りの酸素を完全に除いて食品を保存する技術が開発されている。脱酸素剤「エージレス」だ。

エージレスと似た技術は、ガス置換包装や真空パックとして従来から知られている。しかしこれらの技術が周りの酸素を追い出したり、他のガスと入れ替えたりするのに対して、エージレスは酸素を吸収して除くため、その完全さにおいてエージレスには遠く及ばない。また、ガス置換包装や真空パックの場合、保存中にフィルムを通して後から酸素が入ってしまう。エージレスは持続的に酸素を吸収し続けるので、その後も無酸素状態を維持できる。使い方も簡単で、エージレスを食品と一緒に包装するだけで、酸素は完全に吸収され、食品の劣化は防止される。

現在の食生活では防腐剤や酸化防止剤のような、食品添加物の入っていない食品だけを食べ続けるということはかなり困難なことだ。しかし健康意識が高まる中、食品添加物への反発の声はますます大きくなっている。それは法定内食品添加物の使用においてすらである。食品に対する問題提起の多くは安全性の確保という点に集中している。食品添加物が直接の原因だとは言わないまでも多くの病気の一要因となっているともいわれているからだ。

だが脱酸素剤の登場により、従来の食品添加物の使用を大きく見直す状況がつくりだされた。脱酸素剤の使用を前提として食品の品質保持を考える時、劣化防止のために用いられている食品添加物は当然再検討されるべきである。

今後、安全な食品の簡単な見分け方として「エージレス」使用の有無もその一つと考えられる時期が来るのではないか。

「エージレス」を開発したのは三菱ガス化学(株)元常務取締役の吉川義夫氏である。氏の最初の功績は当時全く使い道のなかった多価アルコール(ポリオール)の副産物であるギ酸ソーダからハイドロサルファイト(還元剤)を作る技術を開発したことである。この功績で昭和45年に産業技術の大河内記念技術賞を受賞しさらに、59年には藍綬褒章を受賞した。

脱酸素剤の研究は昭和50年頃から着手し、52年には高い安全性と高性能な活性鉄粉を用いた脱酸素剤「エージレス」を開発した。

「どんなことにでも好奇心を持たなければダメです。好奇心が想像力と創造力を生み出す力になる」と語る同氏は新しいことを創造してきた自信がみなぎっている。

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