百歳への招待「長寿の源」食材を追う:全蠍
中国は日本で食品としないものを巧みに薬食として利用している。恐れられている蠍(サソリ)はフライや煮付けに。鎮痛・リウマチに効果的という。食べるのに勇気が必要な気がするが、多くの中国人は平然と食す。蝉退(センタイ)も意外性が強いが、粥や薬茶利用で、比較的食べやすく、また飲みやすい。庶民的な薬食・薬飲である。
(食品評論家・太木光一)
全蠍(ゼンカツ)はサソリ目の一群をいう。世界で約六〇〇種、熱帯や亜熱帯に多く、昼間は木の葉や石の下に潜み、夜間に出て活動する。致命的な猛毒のものは少ない。体長は平均して四~六センチのものが多く、南アフリカのダイオウサソリは一八センチと最大。
蠍はヨーロッパでも昔から薬用として広く用いられていた。膀胱結石・各種の咬毒・黄疸・痛風・炎症・伝染病の治療のほか、チンキ剤は座骨神経痛の治療に用いられていた。
また中国では産地別に南全蠍と東全蠍に分け、春・夏・秋の三季に採集。4月5~6日から同20~21日の間に捕えたものが品質が良いといわれている。
南全蠍の産地は河南省の南陽・鄭県ほか、特に禹県は生産量が多く全国に供給する。東全蠍の主産地は山東省の益都・沂水・平邑・泰安などで全国に供給し、輸出もしている。
全蠍の薬味と薬性は甘・辛・平であり、薬能として足の部分は厥陰経の薬物で、もっぱら風邪を鎮める効力がみられる。特に全蠍は風邪を治すほか、強力な鎮痙作用を持っているので、けいれん、ひきつけ、破傷風に応用されている。
高熱が続く場合には、さらに羚羊角や大青葉黄蓮などを配するとよい。破傷風のときは、麝香・朱砂も加えること、顔面神経まひで目や口がゆがむ場合には、白附子やジァンシャン(あがり蚕)などを配合すると効果的となる。
全蠍は鎮静作用があるので頭痛・リウマチ痛などに単身で服用しても効果がある。解毒・散結作用を利用して瘡瘍の腫痛に用いる。このほか関節痛・筋肉痛に有効。
鎮痛・鎮痙・解毒の三大薬効があげられるが、鎮痛と鎮痙作用が最も強力である。このため全蠍を利用した薬剤も多くみられる。『中薬大辞典』によれば効用主治として止痛・解毒・中風などがあげられ庶民性の高い病気に効くとして内服・煎湯・外用に利用。
食品利用として、筆者は全蠍を北京の有名な薬膳店で数回試食したが、ある場合はカラ揚げであり、ある場合は煎(小量の油で両面を煎り焼く)で姿もそのまま食べた。一回の量は六~七匹であるが、意外と食べやすかった。美味とはいいにくいが、数多くのファンがみられ、人気の高い食材であると思われた。