ヘルシートーク:俳優 勝地涼さん

2012.11.10 208号 05面

 東映創立60周年記念映画『北のカナリアたち』。原案は湊かなえ、主演は吉永小百合、ロケ地は利尻・礼文島と、話題満載の超大作。大女優・吉永小百合さんと夢の初共演を果たし、すっかりファンになってしまったという勝地涼さんにロケの思い出をお聞きしました。

 ◆蟹の量にびっくりしたロケ 地元の人の温かさに感謝

 体感温度がマイナス30度Cにまで下がる冬の利尻・礼文島が舞台でした。一面雪景色の中に分校のセットが作られていて…。

 この時期は観光客も誰もいないのですが、撮影のためだけにホテルや施設を特別に開けてくださったんです。地元の方々がとても親切で、差し入れをたくさんいただきました。ある日、「蟹が入ったから食べませんか?」って言うんです。僕らのイメージでは、蟹は1杯か2杯、運ばれて来るのが普通です。それが予想外にたくさんの蟹だったんです。びっくりしました。一生分の蟹を食べたんじゃないかな(笑)。

 蟹だけでなく、とにかく何もかもがおいしかった。薄い昆布が何枚も重なっているお菓子があって、それをつまみにしていたら病みつきになってしまい、お土産に大量に買い込んで来ちゃいました。

 撮影が終わって明日は東京に帰るという日の夜も、地元の皆さんが蟹汁やウニのおにぎりを作ってくれたんです。蟹にウニ。ぜいたくですよね。とてもおいしかった!蟹汁には野菜もたくさん入っていました。大根やにんじん、ねぎなど、ごく普通の野菜ですが、雪に閉ざされた生活だったから野菜が不足していたんでしょうね。「ああ、野菜っておいしいな」と実感しました。とても印象に残っています。

 ◆明日、世界が滅びるとしても 今日、あなたはリンゴの木を植える

 「明日、世界が滅びるとしても 今日、あなたはリンゴの木を植える」—これは私が演じた生島直樹が、同級生の結花とけんかをしてしまい、本当は仲直りをしたいという気持ちを、はる先生のご主人に相談した時にいただく言葉です。直樹がこの言葉をずっと気にかけて生きているように、僕自身も撮影中ずっと考えながら作品に臨んでいました。

 子どもの頃、直樹の家はとても貧しかった。それなのに父親は、結花の母親が経営するスナックに入り浸って酒ばかり飲んでいる。直樹は、母親や自分が苦しんでいるのは結花のせいだと思い、ひどい言葉を投げつけてしまいます。謝りたい気持ちでいっぱいなのに、なかなか謝れない。

 この言葉は「いまできることを、いまやりなさい。後悔しないために。男は結果を恐れちゃいけない」と背中を押してくれるんですね。しかし、その直後、先生のご主人がある事件で亡くなり、それをきっかけに皆がばらばらになってしまう。そして20年後に再会して—こんなストーリーです。

 直樹は、貧乏から逃れるために必死で勉強して大学を出て、札幌の会社に就職をしたけれど、その会社が倒産してしまう。

 「またかよ、また俺、貧乏に戻っちゃうのかよ」と嘆くのですが、はる先生のご主人のこの言葉があったから、しっかり前を向いていられる。きっと「最悪の時でも生きていかなければならない、希望を失ってはいけない」という教えなんでしょうね。この映画を象徴するセリフになっていると思います。

 ◆吉永小百合さんを女優としても人としても尊敬

 僕の中で、吉永さんは“神様”みたいな人だったんですよ。僕が生まれたときから大スターだったわけですから。はるか雲の上にいて、現実に存在しているのか、いないのか分からない存在。まさか共演できるとは思っていませんでした。だから、お会いするまではすごいプレッシャーがあったんです。

 でも会ってみると、とてもやさしくて、ごく普通のたたずまいの気さくな方でした。僕のことをご存知ないと思っていたのに、ちゃんと作品を観てくださっていて、感激でしたね。

 吉永さんが演じるはる先生とのシーンは、僕が一方的にしゃべっていて、先生はほとんど聞いているだけなんですが、そこに本当にはる先生がいるみたいで、不思議なくらいにどんどんしゃべれたんですよ。

 もちろん緊張感はありましたが、吉永さんと向き合っていたら、自分が学生だった時の先生が思い出されてきたんです。僕の先生たちも愛情あふれる方ばかりでした。とはいえ時には、先生の理不尽さに腹が立つ時もありましたが、いま思えば、先生もひとりの人間なんだと素直に納得できます。この映画のはる先生だって、完ぺきではなかったわけですし。

 今回、吉永さんと共演できて、本当に勉強になりました。若手スタッフには温かく包み込むように接してくださいながら、現場に疲れが見えた時には、ひとりスーッと席をはずされて自分の役に気持ちを集中される。そうなると現場にも緊張感が戻ります。すごいです。女優としてはもちろん、人間としても尊敬できる方です。

 ●プロフィール

 1986年東京生まれ。2000年にドラマ『千晶、もう一度笑って』(TBS)でデビュー。以降、映画・ドラマ・舞台で活躍。2005年制作の映画『亡国のイージス』で第29回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞(2006)。趣味は読書、ローラーブレード、水泳、野球。

 http://www.web-foster.com/artists/ryo_katsuji/

 ◆東映創立60周年記念映画『北のカナリアたち』

 11月3日(土・祝)全国東映系ロードショー

 URL:http://www.kitanocanaria.jp/

 監督:阪本順治 撮影:木村大作

 原案:湊かなえ(『往復書簡』幻冬舎文庫)

 脚本:那須真知子 音楽:川井郁子

 出演:吉永小百合、柴田恭兵、仲村トオル、森山未來、満島ひかり、勝地涼、宮崎あおい、小池栄子、松田龍平、里見浩太朗