ヘルシートーク:女優・中嶋朋子さん

2013.01.10 210号 05面

 日本映画界の巨匠・小津安二郎に捧げる山田洋次監督50周年記念作品『東京家族』で、大女優・杉村春子さんが演じた長女にあたる滋子役に挑んだ中嶋朋子さん。クランクアップ後、「自分へのギフトになるような映画でした」と充実感を語る中嶋さんに、現場での様子や普段の食生活についてお話を伺いました。

 ◆「山田学校」でこてんぱんにやられました

 山田監督とのお仕事は今回が初めてだったので、とても楽しみにしていました。「山田学校」に入学するつもりで。

 私の役は『東京物語』で杉村春子先生が演じられた役にあたる長女・滋子役だったんですが、それを考えると大変なプレッシャーになるので杉村先生のことは考えないようにして臨みました。

 実際に撮影に入ると、山田監督の演出がとても厳しくて、私はこれまで何をやっていたんだろうと悲しくなるくらい、こてんぱんの日々が待っていたんです。例えば、「豪華なホテル」の「豪華」という一つの単語を発するだけで、監督に「朋子さんのホテルは品のいい豪華さなんだね」と言われました。「豪華」という言い方だけで、相手に与えるイメージは無限のバリエーションがある。パフォーマンスではなく、どの心根でその言葉を発しているかで、言い方が変わってくるんですね。

 滋子は決して意地悪ではなく、すべてに対して一生懸命な、どこにでもいる女性。だから、観ている多くの人に共感してもらわないといけない役です。どういうふうに言葉を発したら、本当に滋子が発したように聞こえるか、掘り下げて考え続けた3カ月でした。

 演じている私自身にも「人としてあなたはどう生きているの?」と常に問いかけられていました。これまでは役として切り取られた表面的な部分しか見ていなかった自分自身を、正してもらったと思っています。自分が実際に変われたかどうかは分かりませんが、ここに来られて本当に良かったと感謝しています。

 ◆映画の舞台は東日本大震災を経験した東京

 『東京家族』は山田洋次監督の監督生活50周年の節目の作品であり、今年、世界の映画監督が選ぶ優れた映画第1位に選ばれた、小津安二郎監督の『東京物語』をモチーフにした映画です。

 本当は去年の4月1日がクランクインだったのですが、準備の段階で東日本大震災、福島第一原発事故という歴史的な事件に遭遇したために、製作が延期になりました。

 『東京物語』がそうだったように、社会が変わろうとするその時を表現するのに、東日本大震災によって大きく変化しようとする「今」を、避けては通れなかったわけです。ですから、完成した映画は震災を経験した2012年5月の東京が舞台です。

 瀬戸内海の小島で暮らす平山周吉と妻のとみこが、子どもたちに会いたいと東京にやってきて、開業医の長男、美容院を経営する長女、舞台美術の仕事をしている次男が集まり、久しぶりに家族全員が顔を揃えることに。最初は互いに思いやりを持って接するのですが、次第にのんびりした両親と忙しい子どもたちの間には溝ができていくんです。

 ここで描かれているのは、ごく普通にある家庭の出来事です。小さいすれ違いが積み重なって、「大切だけど煩わしい」。きっと、どの年代の人が見ても「そうそう、うちもそう」というシーンだらけだと思います。家族って、照れくさいじゃないですか。そんな自分の中でフタをしていた部分の、そのフタがいい感じで外れて、自分へのギフトになる。そんな映画だと思います。

 そして最後にはきっと「家族に会いたい」と思っていただけると思います。

 ◆息子に野菜を食べさせるには、ハンバーグとスープ

 今年5月に、広島県の大崎上島にロケに行ったのですが、ここは山田監督が「美しい日本の故郷の原風景」と選んだ場所でした。とにかく魚が新鮮で、本当においしかった。

 ブルーベリーもこの島の特産で、ブルーベリー狩りもしました。地元の方がジャムを作ってくださって、お土産まで持たせてくださったんですよ。これがフレッシュでおいしいの。やはり、新鮮なものはいいですよね。

 うちには、果物が大好きで食卓に果物がないと嫌がる中学生の息子がいるので、ブルーベリーをとても喜んでくれました。

 普段の食生活ですか?

 やはり身体が資本ですから、「食が要」だと思っています。特に野菜は欠かせません。どこの家庭でもそうだと思いますが、息子に野菜を食べさせるために、頭を悩ませています。ハンバーグの時はチャンス。れんこんやにんじんなど、何でもいっぱい入れちゃいます。スープもいいですね。たくさん野菜を食べてくれます。

 私自身は、かぶが大好き。葉っぱも全部食べられるし、これからの季節、おいしいですよね。ほんのちょっとだけ蒸して、クリームチーズとみそをあえたソースをつけて洋風サラダにするのがオススメ。これは息子も気に入ってくれています。

 忙しいからほとんど手抜きの主婦ですが、母と同居しているから女優を続けていられます。母の存在はありがたいですね。

 ●プロフィール

 1971年東京都生まれ。5歳でテレビデビュー。1981年からスタートした「北の国から」で蛍役を演じ、一躍有名に。22年間、蛍役を務め高い評価を得た。90年には映画『つぐみ』(市川準監督)でブルーリボン賞助演女優賞など数多くの賞を受賞。映画、舞台などで実力派女優として高い評価を受ける一方で、朗読、執筆、講演でも独特の感性を発揮している。

 山田洋次監督50周年記念作品『東京家族』(松竹株式会社)1月19日(土)ロードショー

 URL:http://www.tokyo-kazoku.jp/

 監督:山田洋次

 脚本:山田洋次・平松恵美子

 音楽:久石譲

 出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優

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