ヘルシートーク:イラストレーター・米澤よう子さん

2016.03.01 248号 05面
『体も心も暮らしも心地よくする美習慣 パリジェンヌ流シンプル食ライフ』文藝春秋

『体も心も暮らしも心地よくする美習慣 パリジェンヌ流シンプル食ライフ』文藝春秋

 2004年から4年間過ごしたパリで、パリジェンヌのシンプルな食ライフに魅了されたという米澤よう子さん。それを独自の目線で描いたイラストエッセイは、女性を中心に幅広い層から支持を集めています。おしゃれだけれど「敷居が高い」と思われがちなパリ流を取り入れるコツや、おうちフレンチの楽しみ方をお聞きしました。

 ●パリ流は難しくない! すぐに始められるシンプルな食ライフ

 おしゃれなパリジェンヌは女性の永遠の憧れ、真似するのは絶対に無理!……私もそう思っていた一人でしたが、パリで暮らしてみるとそれは間違いだったことに気づきました。なぜならば、彼女たちに聞くと「何もしていないわよ」と答えるほど、パリジェンヌのライフスタイルはシンプルで無理がないから。でも、その“何もしていない”が、悔しいほど日本人にはおしゃれに映るんですよね。日仏を往復して違いを読み取ってきた私は、パリジェンヌの“当たり前”を、日本の女性たちも簡単に生活に取り入れられるよう“翻訳”したいと思いました。

 私はイラストレーターなので、ファッションでも何でも、形や色合わせなど見た目から興味を持つことが多いのですが、食も同じで、フレンチの美しさに「素敵!」「かわいい!」と感じて、見よう見まねで取り入れているうちに、パリ流の感覚がどんどん研ぎ澄まされていきました。

 例えば、野菜のスライス面を上にして、一つずつお皿に盛り付ける“技”。ブロッコリーやにんじんなどカラフルな野菜を並べれば、それだけで「アール・ド・ヴィーヴル(暮らしの中にある芸術)」を楽しめて、美的感覚も磨けます。それから、盛り付けの丁寧さもぜひ取り入れてほしい感覚です。“目で味わう”ことも大切にするパリジェンヌたちは、整列させて盛り付けたり、大きめのお皿に盛り付けて余白を活かしたりと、最後まで手を抜きません。はみ出しを菜箸で少し寄せるだけでも、おしゃれなひと皿にランクアップしますよ。これくらいなら、誰でもどこでもできそうでしょう?

 少ない食材をシンプルに料理するのもパリ流の特徴の一つ。たくさんの食材を混ぜると、一つひとつの味が分からなくなるからです。お肉の野生的な臭みや、野菜の土臭さをダイレクトに楽しめる料理を好むため、ごった煮はあまり見ないし、つけ合わせはにんじんのグラッセやほうれん草のソテーなど単品ものが多いんです。ドレッシングもフレンチとバルサミコの2種類くらいしかないシンプルさです。

 ●パリジェンヌはおしゃべりが大好き?レストランでも、自宅でも

 レストランでも自宅でも、パリジェンヌたちは、家族や友人とのおしゃべりを楽しみながら食事をします。食べているものに関しては、原材料の味のほか、素材を噛み締めて感じられる風味を言葉にします。たとえば、シンプルな牛ステーキでも「ナッツのような香ばしさがある」といった風に。ナッツが一粒も入ってなければ間違いじゃないかと思いますよね?

 でも正解か否かは問題外。その人の感性と言葉が評価されます。だから、自由で楽しいおしゃべりになるんです。味だけでなく、香りや見た目などを五感や脳も使って噛みしめて、相手がその料理に何を感じ取っているのかに興味を抱きますね。

 料理を友人同士でシェアしないところからも、パリジェンヌの食の楽しみ方がうかがえます。日本の女性は、あえて別々の料理を頼んでいろいろな味を試すということがあると思いますが、彼女たちは相手が何を頼んで、どう味わっているのか感想を聞きたいと思っています。

 このような感覚は、ワインのテイスティングに似ているかもしれませんね。でも、彼女たちは決して気取っているわけではなく、感性で遊んでいるのです。「そんな料理の味わい方もあるんだな」ということも、彼女たちから教えてもらいました。

 ●ホワイトアスパラはパリジェンヌの宝物 感性をフルにして食材の持ち味を楽しんで!

 この時期、いつも待ち遠しいのは春の訪れを告げるホワイトアスパラガスです。パリではアスパラが特別な存在なのか、まるで“アスパラ様”と言わんばかりに宝物のように扱うんですよ。

 まず、ピーラーで皮をむいて、数本を束ねてたこ糸で縛ります。むいた皮と一緒にアスパラを鍋に入れて、たっぷりのお湯でやわらかめにゆでます。最後には捨てる皮も、ブイヨンのようにうまみ成分として使うのがパリ流。アスパラを丸ごと1本お皿に乗せて、丁寧にフォークとナイフでいただきますが、切るのは食べる直前なのがポイント。切ってから盛り付けようとすると、「エキスが出てしまうから」と怒られるんです。チーズなども同様で、切るのは食べる直前。食材の味に対するこだわりは、かなり厳しいのがパリの人々です(笑)。ソースで味わうのが定番ですね。

 アスパラをメイン級の食材として扱うことからも分かるように、パリジェンヌは、一品、一品の料理を全身で味わうことを大切にする人たちです。いつも自分の感性をフルに稼働させて毎日を過ごしているから、エネルギッシュに輝いて見えるのかもしれません。私は、帰国してからもパリジェンヌたちと同じようにシンプルな食ライフを続けていたら、パリ流の考え方がストーンと入ってきて、身体はスリムに、心もすっきりしました。

 日本は何でもすぐに手に入る環境があり、とても豊かなように感じますが、見方を変えると、たくさんの誘惑や情報に振り回されているともいえます。疲れていたり、無理に合わせているようなところがある人は、シンプルなパリ流を暮らしに取り入れてリラックスしてみてはいかがでしょうか。とにかくやってみること。簡単さに驚くはず。でも、パリ流の魅力にはまったら、もう抜け出せなくなるので要注意です(笑)。

 ●プロフィール

 よねざわ・ようこ 東京都生まれ。グラフィックデザイナーとして広告制作会社に勤務後、1993年にイラストレーターとして独立。大手企業の商品パッケージや広告、女性誌や書籍、WEBのイラストなど多くの媒体で活躍。04年から08年、拠点をパリに移して日仏で作品を発表。特にパリの高級百貨店ボン・マルシェでの個展は高い評価を得た。著書に『パリジェンヌ流おしゃれライフ–いつもの世界が輝きはじめる36の方法』(文藝春秋)『パリ流おしゃれアレンジ!1~3』(KADOKAWA /メディアファクトリー)など。

 http://www.paniette.com/

 ◆『体も心も暮らしも心地よくする美習慣 パリジェンヌ流シンプル食ライフ』

 文藝春秋/定価1,300円(税別)

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