ジビエの魅力・可能性を語る 知ってほしい栄養成分 おいしく食べて家庭でも

(一社)日本ジビエ振興協会 藤木徳彦代表理事

(一社)日本ジビエ振興協会 藤木徳彦代表理事

元女子体操日本代表選手 田中理恵さん

元女子体操日本代表選手 田中理恵さん

 ◆日本ジビエ振興協会・藤木徳彦代表理事×元女子体操日本代表選手・田中理恵さん

 野生鳥獣による農作物被害は2019年度に158億円。その63%はシカとイノシシによるものだ。被害を減らす取組みにより捕獲したシカやイノシシは、衛生を管理した上で天然食材の国産ジビエとして安全に食肉処理し、流通させる新たなステージに入っており、日本フードサービス協会による全国ジビエフェアの開催など、その普及が行われている。

 ジビエは、新型コロナウイルスの感染拡大で販路を失った国産農林水産物を食べて応援する販売促進緊急対策「#元気いただきますプロジェクト」のインターネット販売での送料支援の対象品目にもなっている。20年6月1日施行の改正食品衛生法は原則としてすべての食品事業者などにHACCPに沿った衛生管理を義務付け1年間の経過措置期間を経て今年6月1日から本格施行する。ジビエの処理加工施設向けにHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引き書を作成した一般社団法人日本ジビエ振興協会を率いる藤木徳彦代表理事がきょう29日の肉の日に合わせて、親交ある元女子体操日本代表選手の田中理恵さんと、栄養成分や家庭での調理法など、まだ十分に知られていないジビエの魅力や可能性について語り合った。(川崎博之)

 ●農作物などの被害を減らす

 藤木 47都道府県でシカやイノシシによる被害のないところはないといわれているぐらい、どこでも被害は深刻です。シカやイノシシが増えると、里に下りてくるようになります。エサを求めたイノシシはミカンなら実だけではなく木ごと倒してしまい、翌年から栽培ができなくなってしまう。農家にしてみればやっかい者です。どんどん捕ってくれということですが、シカ肉やイノシシ肉を食べる人が少なかったりすると山に掘った穴に捨てて埋めてしまうことになります。私たちレストランではシカ肉やイノシシ肉を仕入れて料理しています。片や食べられることなく捨てられています。捨てられるばかりであるのなら、命をいただくことに感謝しておいしく食べるジビエとして普及させなければいけないと思って日本ジビエ振興協会の活動を始めました。

 今は、シカとイノシシを合わせて1年間に全国で124万頭が捕獲されています(19年実績、20年9月10日現在の環境省の速報値)。猟師さんが自家消費している分は別として、ジビエとして流通されているのは、そのうちの1割ぐらいです。

 田中 ニュースで良く見ますからね。田んぼや畑が荒らされて、柵を作ってもその柵が壊されるなど農家の皆さんが大変な思いをされているんですよね。人に被害も与えていますからね。ただ、野生動物に悪意があるわけではないでしょうし。ジビエには、食べられずに捨てられていく命に対する藤木シェフの思いもあるのですね。

 藤木 シカやイノシシを食べる文化はいろいろな地域で昔からありました。地域の食文化なのです。だけど日本でジビエのシカ肉やイノシシ肉が衛生管理を必要とする食肉として認識されたのは14年からです。

 田中 ごく最近のことなのですね。

 ●安全・安心のためのルール

 藤木 厚生労働省がジビエを食肉として流通させるためのルールを「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」として14年に定めました。捨てるのではなくもっと食べようよというときに、安全・安心がしっかり担保できる仕組みを示したということですね。そのルールの下で捕獲する方法、食肉として処理する方法、調理と販売・消費時の取り扱いなどを定めました。それまではそのルールすらありませんでした。猟師さんはそれぞれに自己流で捕ってさばいて処理して食べていたので、腕が良く解体処理が上手な猟師さんの肉はおいしいし、そうでない肉は臭いなどばらつきがありました。かつてはレストランも腕の良い処理の上手な猟師さんから直接仕入れることができたのですが、現在は、食品衛生法に基づく許可を受けた野生鳥獣の食肉処理加工施設がガイドラインに沿って解体・処理した食肉を、われわれレストランも仕入れなければならなくなっています。

 現在、ジビエの処理加工施設は全国に667施設(19年度)あります。ただ、処理加工施設も衛生管理にばらつきがあるので、18年に農林水産省が「国産ジビエの認証制度」を定め、しっかりとした衛生管理が行われている施設を第三者機関が認定することになりました。

 この国産ジビエ認証には認証マークもあります。チェックマークをシカとイノシシの横顔でデザインしたものです。このマークをジビエの製品や加工品、販売促進資材のパッケージなどに貼ったりして使用することが認められる認証取得施設は全国に17ヵ所(20年12月末現在)あります。

 田中 こういうマークがあれば、食べる側は安全・安心であることが分かりますね。

 藤木 国産ジビエ認証の取得施設は、まだ17ヵ所しかないので、もっと増やしていこうと取り組んでいるところです。

 ●低カロリーで高タンパク質

 藤木 ここに栄養成分の比較があります。牛肉、豚肉とシカ肉、イノシシ肉を100g当たりでカロリーとか、脂質とか、鉄分とか比較したものです(図)。

 田中 シカ肉はタンパク質がすごいのですね。

 藤木 鉄分も多いのですよ。

 田中 カロリーも低いですね。アスリートは、特に体操競技はすごく体を絞らなくてはならない競技なので、低カロリーで高タンパク質という栄養成分は、最高にうれしいことです。アスリートにとって食事はトレーニングと同じぐらい大事なものですから。

 ただ、調理が難しそうですね。私は小学校から高校まで和歌山に住んでいたのですが、夕飯でカモ鍋がすごく出ていたのですよ。カモ肉はジビエですよね。しっかりかまないと飲み込めなかったという思い出があります。

 藤木 ジビエは常に家畜の肉の牛肉、鶏肉、豚肉と比較されます。家畜の肉とは質としてもまったく違うものなのかなと思います。ジビエは天然食材なのです。家畜は人が食べるために改良されています。おいしくなるようなエサをあげて1年中安定しておいしく食べられるようにしたものです。焼肉で考えると分かりやすいと思います。サシが入っている脂の多い肉はプロの料理人でなくても軟らかく焼けます。しかしジビエはそうでない。同じように焼くと硬くなります。

 一方、ジビエは野生の肉ですので季節のサイクルがあります。秋から冬にかけてイノシシはたくさん脂肪を蓄えます。また、常に山の中を駆け回っているので、全身が筋肉質です。サシが入ったシカ肉などもまずないのです。先ほど田中さんが言われたカモ肉もそうで筋肉質です。余計な肉は一切ついていません。そういうところがジビエの肉の特徴かなと思います。そこがジビエの魅力でもあるのです。調理でちょっと工夫しないと食べた時のおいしさは伝わらないかなと思います。ちょっとしたコツでご家庭でもおいしく食べられます。

 ●簡単に調理できるコツ

 田中 外で食べるものと思っていました。考え方が変わりました。家庭でも簡単においしく調理できる方法を教えてください。スーパーではあまり見かけないのでどうやって手に入れるかも。

 藤木 肉が硬くなってしまうのは加熱の方法によるものです。ジビエは加熱して食べるのが大前提ですが、赤身の肉は加熱しすぎると硬くなります。なるべく弱火でゆっくりと加熱することが理想ですが、ご家庭の料理は時間勝負でしょうから、生肉の段階で軟らかくしようという方法があります。シカ肉の食べ方でお薦めは唐揚げです。シカ肉には脂身がないので脂っこくなくさっぱりした食感になります。唐揚げは高温で加熱するから硬くなりそうですが、揚げる前に醤油、みりん、ショウガやニンニクなどの調味料に漬け込む際に、例えば200gの肉であれば、ヨーグルトを、カレーを食べる時に使うスプーンで1杯分入れれば軟らかくなります。ただ、漬け込み時間に1時間から2時間ぐらいは必要です。唐揚げに限らず、シカ肉やイノシシ肉でステーキを作ったり、スライス肉でショウガ焼きを作るのであれば、生肉をヨーグルトや塩麹、リンゴのすりおろしでもんでおくとか、酵素の力で肉を軟らかくする調味料に漬け込んでから焼けば硬くはなりません。簡単に調理するコツです。

 全国どこでも簡単に手に入る方法としては、インターネット販売が良いと思いますが、今でしたら「#元気いただきますプロジェクト」も行われています。

 ●買ってみようが第一歩

 田中 主婦目線なのですが、インターネット販売は調理方法がサイトに載っているかどうかというところの違いは大きいですね。肉だけが並べられていても調理方法は分からないので。調理のコツとか、今教えていただいたようにヨーグルトを入れたらおいしくなりますとか、漬け込む方がおいしいですとか、作り方を細かく書いていただいたら、“おうち時間”で、「さあ、シカ肉が送られてきた。やってみよう」と楽しい時間になるのではないかなと感じます。

 藤木 価格についてですが、食肉処理加工施設から仕入れる価格、インターネット販売での価格もそうなのですが、豚肉よりも高く牛肉並みか牛肉よりもちょっと安いぐらいです。

 私の店でも、私がこのようなジビエの振興活動をしていても、「家畜はエサ代が掛かったり手間を掛けているのが分かるが、シカやイノシシの原価は無料でしょう。シカ肉やイノシシ肉はなぜこんなに高いのですか」と言われることがあります。ジビエを食べたことがない人には、お話した農作物の被害を減らす取組みをご理解いただけないと、価格が牛肉と一緒だったら買わないかなと思います。牛肉の味は知っているのですから。そこで「#元気いただきますプロジェクト」のようにインターネット販売の送料を支援してもらえると、まず買ってみようかなと思ってもらえる第一歩にはなるかなと思っています。大きな効果です。

 ●アスリートや給食にも

 藤木 アスリートの育成施設にジビエの活動を応援してくださっている知り合いのドクターがいらっしゃいます。昨年、話を聞いていただける機会がありました。管理栄養士の方も交えたお二人にジビエの栄養価について話をしました。そうしたらそういう栄養価であれば、これからはジビエもアスリートの食事の献立に取り入れていきましょうという話もございました。このほかにも学校給食にジビエを使っていただきたいと思っており、いろいろな地域に行って話をしています。

 田中 アスリートの食事の献立というのはすごいですね。育成施設にいるときは、管理栄養士の方々が私たちの食事を1から10まで全部考えて出してくださるのですよ。

 体操競技だけではないのですが、体重管理に困っているアスリートであったり、自分の体づくりの中で何を食べたらいいのか悩んでいるアスリートはいっぱいいると思います。低カロリーで筋肉にも体づくりにもすごく良いということが分かれば、皆が興味を持つと思います。知って食べるのは大切なことですね。世の中には、男性も含めて美容に興味がある方々は多いので、もっと知ってもらって皆に食べてもらいたいなという気持ちになってきますね。私自身、ジビエについて知らないことがいっぱいありました。アスリートにも、もっと広めていきたいと思います。

 ◆(一社)日本ジビエ振興協会・藤木徳彦代表理事

 (一社)日本ジビエ振興協会代表理事。オーベルジェ・エスワポワールオーナーシェフ。全国でジビエの普及に取り組む。地域活性化伝道師(内閣府)を務める

 ◆元女子体操日本代表選手・田中理恵さん

 元女子体操日本代表選手。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事。2012年ロンドン大会では団体で2大会連続決勝進出に貢献

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 ●「国産ジビエ認証制度」制定

 「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」とカットチャートによる流通規格の順守、適切なラベル表示によるトレーサビリティーの確保などに取り組む処理加工施設を認証する。認証を受けた処理加工施設で生産されたジビエ製品などに認証マークを表示できるルールも規定した。ジビエの処理加工施設の自主的な衛生管理などを推進するとともに、より安全なジビエの提供と消費者のジビエに対する安心の確保を図るため、農林水産省が18年5月に制定。

 ●消費拡大の取組み

 全国ジビエフェア=日本フードサービス協会が主催し、20年11月1日から21年2月28日まで開催している。ジビエメニューを提供する飲食店、ジビエ商品を販売する小売店などの情報をインターネットの特設サイト(https://gibierfair.jp)で検索できる。参加店も募集中。

 #元気いただきますプロジェクト=農林水産省の国産農林水産物等販売促進緊急対策。「インターネット販売推進事業」では、インターネット販売(https://www.kokusan-ouen.jp/gibier/)での購入商品の送料を支援する。送料支援は終了が迫っているため、詳しくは事業参加の各サイトで。「農林水産物の販路の多角化推進事業」では、飲食店限定の販売サイト(https://foodmall.gnavi.co.jp/pr/)で2月26日午後6時まで通常の購入商品価格の最大50%を支援する。

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