V字回復した宅配牛乳 高齢化社会のセーフティーネットの役割も

現在の牛乳配達車

現在の牛乳配達車

昭和生まれにとって懐かしい音がある。その一つが、朝の町に心地よく響く牛乳瓶が触れ合う音だ。各家庭に牛乳を配達するというビジネスモデルの宅配牛乳は、冷蔵庫の普及、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの誕生と発達により長く苦戦が続き昭和の時代の終わりとともに、幕を下ろすかと思われていた。しかし、平成に入り、機能強化した宅配専用牛乳の導入など商品力の強化を行った結果、宅配保有件数はV字回復し、現在でも安定して推移している。

また、一部の牛乳販売店では、配達の際に買い物代行や見守りサービス、廃品回収なども独自に行い、地方を中心に広がっており、高齢化社会のセーフティーネットとしての役割も担うようになっている。

地域包括ケアシステムと高い親和性

さらに、厚生労働省は、団塊世代が75歳となる2025年をめどに、住み慣れた町に暮らしながら、介護や医療、生活支援や介護予防を一体で受けられる「地域包括ケアシステム」の構築を推進している。この「地域包括ケアシステム」と、地域をよく知る事業者が展開する宅配牛乳というビジネスモデルの親和性は高い。

自宅で生活する高齢者の健康状態を把握し、要介護状態になる前に予防する動きができるのは、地域に密着しながら定期配達できる販売店に大きな強みがある。栄養や機能を強化した「食」と「健康」をサポートするサービスを直接提供しながら、今後は「介護予防」という社会課題を解決するビジネスモデル構築に向けて取り組んでいる。

スーパーなどの台頭で一時大幅縮小

約100年前に始まった「牛乳宅配」は、日本国民の心とカラダの「健康宅配」へ進化している。昭和3(1928)年に「宅配牛乳」を開始した明治に、宅配牛乳の約100年歴史と今後を聞いた。

明治の宅配事業は、昭和3年に開始した。宅配の商品は、同社と商品売買契約を締結した販売店を通じて一般家庭などに届けられるが、7店で開始した販売店は、1年後に35店、2年後は54店と増え順調に拡大し、現在は約3000店になっている。

開始当時の牛乳配達車

戦後は、1950年に牛乳の自由販売が解禁され、「明治牛乳」に加え、1956年に発売した「明治コーヒー牛乳」や1958年に発売した「明治フルーツ牛乳」など、商品ラインアップの拡充を図った。また、「明治牛乳」も、500mlや900mlなど家族層をターゲットにした大型瓶を1950年代から1970年代にかけて発売した。

高度経済成長期の中、宅配事業も全盛時代を迎え、1976年の同社の宅配保有件数(明治の宅配を利用する家庭の数)はピークとなる約350万軒にまで拡大した。

1976年にピークを迎えた宅配保有軒数だが、その後冷蔵庫の普及や量販店の拡大により、購買行動が変化し「牛乳=販売店=宅配」という構図が崩壊。1980年代には、宅配保有件数が約120万軒まで落ち込み、宅配事業自体が存続の危機を迎えた。

宅配独自商品の展開でV字回復

しかし、平成に入った1990年ごろから復活を目指し、「商品力」と「営業力」を強化した取組みを開始した結果、宅配保有件数は2000年代に約250万軒にまでV字回復し、それ以降もほぼ横ばいで推移している。

V字回復を果たした要因のうち、「商品力の強化」では、宅配独自商品の展開に注力した。復活を支えた商品の一つに、1993年に発売した「明治のびやかCa牛乳」がある。通常の牛乳よりもカルシウムを強化した特徴を明確化し、宅配専用商品として販売した結果、大ヒット商品に成長した。

ほかにも、1996年発売の「明治朝のブルガリアのむヨーグルト」や、1997年発売の「明治のびやかFe」など、カルシウム・乳酸菌・鉄分などに特化した宅配専用商品を展開することで、消費者のニーズに明確にアプローチでき、宅配軒数の拡大に寄与した。

2つ目の要因は、「業界初」となる新しい瓶・シュリンクフードを展開したことだ。商品をより安全・衛生的なものにするため、それまでの紙キャップからポリエチレン製のキャップにした新しい瓶を1998年に導入。

ポリエチレン製にすることで密閉性が格段に向上し、さらにシュリンクフードを巻き付けて汚れやホコリをガード。さらに、宅配商品では珍しく、新聞やTVのマス媒体を使用したプロモーション活動も展開した。

営業力の強化では、1980年代後半から、宅配の営業活動である新規顧客開拓に充てる時間を捻出するため、毎日配達から週2~3回配達にシフトさせていった。これを可能にしたのが「保冷受け箱」で、気温40度Cの夏場でも保冷剤を入れれば宅配商品を約8時間保管できるようにした。

毎日の早朝の涼しい時間帯に限られていた配達が、隔日日中でも配達できるようになり、配達効率が格段に上昇し、営業活動を行う時間を創出することに成功した。

「フレイル」「介護予防」など社会課題解決に向けて進化中

現在は、牛乳、ヨーグルトに加え、牛乳と混ぜて飲む「青汁」や、明治ブルガリアヨーグルト入りのレトルトカレーなども扱うなど取扱品目は拡大している。宅配顧客の中心は高齢者で、約4割が70代以上、60代以上では約7割を占める。

こうした顧客層に対応し、高齢者における社会課題の一つである「フレイル対策」や地域密着の見守りサービスなども実施し、宅配のトップシェアとして「牛乳宅配」を「健康宅配」へ進化させている。

具体的には今春から、社会課題であるフレイル対策として、タンパク質やカルシウムを多く配合した流動食「明治メイバランス Miniカップ」の取り扱いを全国で開始。さらに、販売店の従業員が、利用者の多くを占める高齢者に対して、パンフレットを使用しながらフレイル対策や適切な栄養のとり方について説明をする取組みも行う。

宅配だからこそ可能な直接会って説明することで、健康の維持に必要な栄養をとることの重要性をより理解してもらう。

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