飲食店成功の知恵(88)繁盛編 品揃えの常識を捨てる
前回はメニューのパワーアップについて取り上げたが、今回はメニュー構成=品揃えについて考えたい。
飲食店には業種によって「標準的な品揃え」というものがある。結論からいえば、その品揃えの「常識」を一度捨ててみる必要がある、ということだ。
ここでまず大事なことは、今の品揃えにどういう根拠があるのか、そこを素直に考えてみることである。オープンから今まで、ほとんど同じメニュー構成だとしたら、なぜ変えなかったのか。そしてその構成は、いわゆる「業種らしさ」に縛られていないか。また、変えたとしたら、なぜ変えたのか。
いうまでもなく、品揃えが必要なのは、売上げを上げるためである。つまり、お客に喜んでもらうために品揃えをするわけだ。しかし、大半のお店はそういう確固とした理由があってメニュー構成を決めているのではない、と言っていいだろう。あえてはっきり言えば、単に「業種らしく」体裁を整えているにすぎない。「何でも一応あります」式の発想である。これで果たして、本当にお客は喜んでくれているだろうか。
もちろん、品揃えは同じでも味は違うではないか、という意見はあるだろう。それは一面では正しい。まさにオーソドックスなメニュー構成であることがお店の価値となっている例は、いくらでもある。商品の種類は平凡なものばかりでも、内容が違うからだ。お客をぐいぐい引きつける強力な商品力があるから、品揃えにも根拠がある。ポイントはここだ。つまり、品揃えの根拠とは、商品力にほかならない。
逆に言えば「常識的」な品揃えでごまかしているのは、商品に自信がないから、ということになる。とりたててまずくはないかもしれないが、何の特徴もない。要するに「並み」の商品なのだ。ラーメン店だからラーメンを売っているだけで、「どんなラーメンを売ろうか」という発想がない。「当店の売り物はこれですよ!」と主張できる商品がないから、無難なところでと考える。その結果、どこのお店も似たり寄ったりの品揃えになってしまうのである。
成功するためには他店との差別化が必要なことくらい、だれでも知っている。そして、飲食店の差別化の最大の武器は、いうまでもなく商品である。強烈な個性を放つ商品である。「あのお店でしか食べられない」商品だからこそ、お客は遠くからでもわざわざやってくる。しかし、「並み」の商品しかないお店には、近所の人すら入ってくれない。せいぜい利便性で利用されるだけである。
本当に自信のある商品であれば、極端に言えば他の商品は不要。単品商売が成り立つのである。もちろん、その商品をより効率的にアピールするための捨てゴミ商品を置いたり、お客の選ぶ楽しみをつくることも、商品政策上大事なことではある。しかし、だれに何を売るかという戦略があれば、無意味な品揃えなどしない。商品一つ一つに、それぞれの存在理由があるわけだ。
業種らしい商品なら「何でもある」というお店は、言い換えれば「何にもない」お店である。いくらメニューの種類が豊富でも、ぜひとも食べたいと思える商品がひとつもないのでは、お客が喜んでくれるはずもない。
差別化とは、他店との違いを明確にすることである。ところが、商品に自信がないと逆に、他店と違っていることが不安になってしまう。おかしな話だが、「並み」のお店であることで安心してしまう。それが正直に出てしまうのが、品揃えなのだ。
独自性を貫くには、勇気がいる。しかし、勇気を持たずして成功はないのである。
フードサービスコンサルタントグループ
チーフコンサルタント 宇井 義行