お店招待席 懐石料理「あずみ野」千葉・流山市

1996.07.15 105号 6面

主婦の良さ大切に

常磐線・千代田線の南柏駅から車で七、八分、旧日光街道を少し入ると普通の家庭の門構えだが、よく見ると「そば懐石あずみ野」という看板が目にはいる。知る人ぞ知る隠れ家で、交通が不便といえば不便だが、それゆえに「都心からちょっとドライブ気分を味わえる距離」が奏功しているのか千葉、埼玉、東京、茨城を中心に遠方からも車をとばして客が来る。

「一度来た方はすぐにお友達を連れてきてくださいます」(河野貞子代表)

交通の不便さが店の期待感を膨らませ、それを決して破らない。歓待してくれるのは料理であり、器であり、店内の雰囲気であり、緑豊かな中庭であり、エプロン姿のホールのサービスである。

専業主婦だった河野さんが友達をよんでそばを打って食事会をしたところ「おいしい。これなら商売できる」の声があり、この一言から飲食業らしき道に入ったのが一〇年前。最初は家の一部を改造してそばを子供や家庭に支障がないように夏休み、冬休み、春休みを除く月~金の日中だけ提供。そのおいしさに料理も……となり、懐石コースの現在のスタイルになったのは平成になってから。

「商売を始めるときに頭にあったのは、肩を張らずにアットホームで迎えられる店づくり。それであえて玄関は普通にして、ホールも着物に帯ではなく、普通にさわやかなエプロンでという主婦の良さを大切にした」

そのかわり、主婦が家人を思いやる心を最大限に生かして食材、手づくり、工夫に手抜きはしない。

オーナーのセンス

「バブルの時に皆さんグルメになって相当なところを食べ歩きました。そこで本物、価値ある物を学習されたと思います。この店はコースのみで客単価はだいたい昼は六〇〇〇円ぐらい、夜は九〇〇〇円ぐらいとこの地域では安くありません。それでもお友達を連れて来店してくださるのはこの店の価値を納得してくださっているのだと思います」

客層としては主婦が大多数だが、最近は都心の接待に飽きた会社役員がタクシーで乗りつけることもしばしばという。

商売となるといくら趣味から出発したといっても気苦労は多い。

「この道に入ったら、後には引けない。商売上のチャンス、タイミングも読まなくてはいけない。限りなき前進あるのみと自分に言い聞かせ、スタッフ(すべて主婦二〇人)にも励まされてここまで来た」

実際、従業員の勤続年数は長く、ぜひ働きたいという控えも数人いるとか。

「オーナーはセンスがいい。器一つにしても、何を盛りつけようかと夢が広がるようなものを探してくる。料理好き主婦の集まりなのでそれだけで会話が盛り上がり仕事が楽しい」とは従業員の河野オーナー評。

河野さんは「みんなが私の想像もつかない料理を盛りつけてくれる」とお客だけでなく店全体をオーナーも従業員も楽しみながら創造している。このチームワークと躍動感が、しっとりとしたたたずまいに毎月替わる料理と相まって、グルメ卒業生を引きつけるのかも知れない。

お友達と来てとても気に入り、自信を持って子供関係、趣味、親戚などなどあらゆる“お友達”を連れてたびたび来店しているが「飽きない」という畑中弘子さんは、「料理はもちろん、器もとてもすてきで会話も弾むんです」と語る。

今日、初めて来店した叔母の松田ユキさんは「アスパラのお豆腐、生のベビーコーンの天ぷら、シソのシャーベットは特においしかった。家庭で作れるように作り方を教えてくれるのも親切」。トイレも広くてきれいで気持ちが良かったとか。

「懐石料理あずみ野」

〈創業〉昭和62年

〈所在地〉千葉県流山市野々下六‐一〇四一‐二、Tel0471・45・1222

〈営業時間〉午前11時40分~午後3時、午後5時30分~9時、日曜・祭日・第二・四土曜休み

〈店舗面積・席数〉一〇〇坪・六〇席(最大九〇席)

〈従業員〉パートだけ二〇人

〈客単価〉昼六〇〇〇円夜九〇〇〇円(コースだけ昼四〇〇〇円、五〇〇〇円、六〇〇〇円、夜六〇〇〇円、八〇〇〇円、一万円)

〈年間来店客数〉二万五〇〇〇人

〈客層〉主婦

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