インサイドレポート 秘策練るラーメンチェーン店 「ラーメン珍珍珍」
「ラーメン珍珍珍」のチェーン本部、康和食産(古山邦男社長)は、6月にオープンさせた浅草橋店で一品料理の提供を始めた。一五年間、ラーメン専門で営業してきた康和食産にとっては初の試みになる。
客単価を上げるとともに、仕事帰りに軽くビールを飲みたいというお客を取り込むのが狙い。浅草橋店での結果を見ながら、他のチェーン店にも取り入れていく予定だ。
メニューの一例を挙げると、エスニックビーフン、ローストチキン、牛ワイン煮込みなど。これらはすべて四八〇円。五〇〇円玉で食べられる値ごろ感を重視したワンコインメニューである。
常務取締役の大河内正一氏は「これまでの平均客単価八二〇円を五〇円アップさせ、新たに一日一〇〇人の顧客増を目指したい」と抱負を語る。だが、なぜこの時期に新メニューを導入するのか。
「まだ集計していないが、今年度に入って既存店の売上げが減少しているようだ。いままでのようにラーメン専門だけでいいのかという議論も社内で起こり、売上げアップのため一品料理を導入した」(大河内常務)
九四年度のグループ全体の売上げは六一億五〇〇〇万円、九五年度は六七億三〇〇〇万円である。その間に店舗数が二〇店増えているので、新店の売上げを計算に入れると既存店の売上げは減少しているという。
大河内常務は既存店の売上げ減少の原因をこうとらえる。
「ラーメン店が乱立ぎみであることに加え、コンビニエンスストアの勢力拡大が原因。最近、弁当など食べ物の味が良くなってきた。さらに利用者が若者から主婦層や中高年層にまで広がってきた。価格帯からしてラーメン店のライバルはファミリーレストランよりコンビニエンスストアだ」
康和食産は一品料理に先駆けて、昨年8月に売上げ増のために手を打っている。セットメニューの導入である。セットメニューはラーメンオンリーに比べ原価率が高くなるので、それまでは採用していなかった。
具体的には鰻丼セット、牛モツセット、鳥テバセットなど六セットを用意。なかでも一番の人気は鰻丼セットだという。ラーメンに半ライスの鰻丼、お新香という内容で七〇〇円という値段がお客にはお得と受け入れられたようだ。
一年たってみると、セットメニューが全売上げの三割を占めるまでに至った。ラーメン珍珍珍にとってお客離れを防ぐ救世主となっている。
康和食産の利益の源泉は、全国のチェーン店に卸す食材の売上げと新店オープンの時の加盟金八〇万円、保証金五〇万円などだ。既存店の売上げを伸ばし、かつコンスタントに出店していくことが重要だ。
「開業希望者は最低三件のチェーン店を見て回ります。その中で当チェーンが選ばれる決め手は『味』にほかなりません」と大河内常務は、ラーメン珍珍珍の味に絶対的な自信をのぞかせる。いまも九人の開店希望者が順番待ちをしている。
味の秘訣は古山社長自らが毎日セントラルキッチンに入り、調整するたれにある。自慢のたれには、工場長にも分からない秘密があるそうだ。さらにスーパーバイザーが各店を三ヵ月に一度回り、味の統一を崩さぬ努力を欠かさない。
新店オープンから半年間は厳しく数値管理もするが、それ以降は各店長の責任となる。ただし人件費が三〇%近くになった店には本部から社員がすぐに駆けつけて対応策を練ることにしている。
「オープンから三~四年たって慣れてきたオーナーが厨房に入らなくなった途端に人件費がアップするケースが多い。だが、相手もキャリアを積んだオーナー、頭ごなしに指導するわけにもいかない」。大河内常務はジレンマを隠さない。
しかし、ラーメン店同士の競争はますます激化している。人件費の上昇は命取りになりかねない。しばらくは人件費の数字が悩みの種になりそうだ。
康和食産(株)/古山邦男社長/東京都練馬区高野台二‐一三‐一六/一九八二年11月設立/売上高六七億三〇〇〇万円(九六年3月期、グループ全体)/店舗数(九六年7月末現在)一〇九店(直営四、FC一〇五)/社員数四五人/資本金一二〇〇万円