景気不振のなか続出する繁盛店、生き残る道はもてなしの心
(1面からつづく)
JF(日本フードサービス協会)九六年の外食産業市場動向調査によると、JF加盟の飲食店の既存店売上げは九九・八%。新店舗はともかく、既存店は三年連続前年実績を下回ったようである。前年の「O157が響いた」とのJFのコメントが発表された。
しかし一方では繁盛のニュースも多い。昨年の新宿高島屋の開店に見られたように、今や大変なブランド・ブーム。有力な高級ブランド・ショップは、大きな集客力になっている。今年の正月の海外脱出組は、過去最高の六〇万人を記録した。
ガストの業態確立に苦悩し、グループ各社のリストラに専念していたすかいらーくグループの九六年12月期決算は増収増益の快挙。FR(ファミリーレストラン)大手のロイヤルの九六年12月期決算も過去最高の売上高と経常利益である。
ファミリーダイニング(ファミリーディナー)のK本店の12月の売上げは六〇〇〇万円を超えている。ホームキッチンヘのリニューアルを進めているKFCは、そのニューコンセプトとメニューの多角化が当たり、前年対比一二〇%と絶好調だ。
この両極端の情勢下、いったい何が起こっているのか?
同じ飲食でも一方では衰退、一方では大繁盛、一体どうなっているのか。
今外食業界で起きていることは、わが国の社会・経済面で起きていることと、まさに同じである。本物志向であり、低価格傾向であり、多様化であり、簡便化であり、相反するものの多様な共存である(混沌であっても混乱ではない)。
ライフスタイル上での飲食シーンは、手っ取り早く済ませたい食事もあれば、ゆっくりとおいしいものを食べたいという両極端な傾向が、一人の人間(=顧客)の中に共存するのが現在の傾向である(だから分かりにくい)。
マーケットチャンスという面でみれば、簡便分野や低価格分野にはマーケット(市場)はあまり残されていない。立ち食いそばやハンバーガーや牛丼のようなFF(ファストフード)は、それに類したものが従来から繁華街や街角にはいくらでも存在した。だから、この分野への新規参入チャンスは、ほとんど残されていない。
「ガスト」が試みた低価格分野への切り込みは、し烈な外食企業同士の白兵戦を招来したのである。小さいマーケットの奪い合いは、きびしい消耗戦が待っている。
たとえば、昨年大躍進した(株)東秀が生み出したセルフサービスの二四時間お弁当「オリジン弁当」は、弁当屋としては驚異的な売上げを作る。
オリジンがそばに出店すると、従来のほかほか系弁当は大打撃を受ける。コンビニ、牛丼屋も参戦して三つ巴の戦いになる。だからこの低価格分野には、もうマーケットチャンスとビジネスのうまみはほとんど残っていない。
しかし一方、豊かになったお客を満足させられる飲食店はあるだろうか。おいしい料理と素晴らしい雰囲気で、心からくつろげる飲食店。それが今、豊食時代における飲食ニーズである。グルメで高質でこだわりのある、良い店は非常に少ない。ここにこそ大きなマーケットチャンスが眠っている。
ここ二五年間の飲食の“産業化”の主役は、FFとFRであった。彼らは、チェーンストア戦略で短期間にビッグビジネスに成長した。しかし、三~四年前からこれらFFチェーンとFRチェーンの既存店売上げが頭打ちになり、バブルの崩壊とともに出現した苦しまぎれの“低価格業態”も、さまざまな試行錯誤が繰り返されるなかで、参入各社が次々撤退していった。豊かな時代の消費者は、紋切り型で定型サービスに徹している、チェーンストア型飲食店にはすでにあきあきしている。価格訴求でも効果は見込めない。
確かに一〇年前までは、ファミリーレストランに行くことは楽しみであり、ごちそうを食べに行くことであった。しかしここ何年も、その感覚は忘れている。もう紋切り型チェーンストア飲食店では食事したくない。外食大手企業の低迷や京樽の倒産は、そのことを如実に物語っている。
「どこにでもある、ありきたりの店には行きたくない!」それが顧客の本音なのだ。
この閉塞状況からの脱出に成功したのが、FFでいえば三~四年前の「モスバーガー」や最近話題の「フレッシュネスバーガー」、煮込みハンバーグまで出す牛丼「松屋」、天丼の「てんや」、ゆであげにこだわる立ち食いの「小諸そば」、そして外資のグルメコーヒー「スターバックス」などである。
FRでいえば、有機野菜にこだわる「ジョナサン」、大盛りパスタを取り分ける「カプリチョーザ」、サラダバーの「シズラー」、カニの「甲羅」、和食「さすが家」、大箱刺身居酒屋の「めのこ」、さらに大きい「北海道」「ジョン万次郎」、そば居酒屋の「そじ坊」、集団給食シダックスの「カラオケレストラン」、まだまだこの手の店は、大手の苦戦を尻目に各地で山のように生み出されて続けている。
●繁盛店の必須条件
成功し繁盛している飲食店には、かならず存在するものがある。それは、おいしいメニューとアメニティー(楽しさ)である。飲食は、非常に人間的(生物・動物的)な行為である。生命を維持する最重要の行為でもある。しかしただ食べるだけでは、現代のお客はすでに満足しなくなっている。
せっかく食べるなら、おいしいものを少しずつ食べたい。できればゆっくり楽しみながら食べたい。人間は感情の動物であり、気分や感情抜きには何も語れない。どうせ飲食するなら…と、そう思うのが素直な気持ちである。
では、おいしいメニューとアメニティーのある店とは、どんな店なのか? その特徴を挙げると-
◆“おいしい”と感動する味の徹底的な追求がなされている。
◆素材・メニュー・盛り付け・調理へのこだわりがある。
◆珍しくておいしそうな料理が工夫されている。
◆レベルの高い接客サービスが工夫されている。
◆雰囲気がくつろげて皆で楽しめる。
◆値段が手ごろで、またたまには行きたくなる。
◆従業員が生き生きと働いている。
◆内装にコンセプトがあり一風変わっている。
◆巧みに新しい立地が開発されている。
◆手堅いお客に密着した販売促進がいつもされている。