注目の外食ベンチャー インド料理「マハトマ・ニューデリー」大阪屋
「マハトマニューデリー」は、カレーショップからインド料理の専門店に特化した地域繁盛店。ライト感覚の本格カリーと少量多種類のセットアイテムが人気で、群馬県前橋市を拠点に知名度を高めている。昨今は、カレー専門店やインド料理店を活性に導く手本としても注目されている。
カレーショップをオープンしたのは二〇年前。カウンター二四席でスタートした。当初は赤字の連続だったが、五年後にタンドール(炭火焼き土窯)を導入しナンや肉料理をアイテム化したところ、売上げは前年比二〇〇~三〇〇%と急伸した。
単にタンドールを導入したから売上げがアップしたわけではない。五年の間にカレーという看板アイテムを研ぎ澄まし“専門化”という時代の流れに乗れたからこそ、いまの繁盛がある。
「出来合いの食品が増え続けているので自然志向の安全な食を提供したい」(真貝純一代表取締役)と試行錯誤のなか開発したカレーは、ライト感覚ながらも素材の持ち味を生かした専門店ならではの味わい。自然志向に傾斜するだけあって素材に対するこだわりも半端ではない。
とりわけ味のベースとなる玉ネギについては独自のノウハウを持って淡路島の農家に栽培と一次加工を委託している。
「玉ネギの芽が倒れた二週間後に収穫し、それを二ヵ月間小屋で乾燥させます。すると玉ネギの先っぽから水分が抜けて身が引き締まり甘みが増す。それを〇度Cの保冷庫で一週間ぐらい寝かすとさらに甘みを増す。その玉ネギとニンニク、ショウガと合わせ炒め、冷凍保存しておきます」
理想の味わいを実現すべく、栽培、収穫、保存、一次加工にいたるすべての行程に目を光らせているというわけだ。
カレーのアイテムは約二〇種類、スパイスは三~二八種類と平凡だが、これも年月かけて生み出した答えである。
「スパイスの香りと素材のうまみを楽しむのがインド料理のだいご味。あまり凝って味を複雑にすることはありません。シンプルな配合は個性的な味わいが楽しめるし、複雑にしたからといっておいしくなるわけでもない。お客様がおいしく楽しめる範囲で配合すれば良いと考えています」
「配合に懲りすぎていた当初、友人から『一種類ぐらい混ぜ忘れることもあるのでは。混ぜ忘れてもお客は分からないだろな』と指摘されました。そういえばそうだな、と思ったとき急に肩の力が抜けましたね。つまり自己満足というこだわりを求める以前に、お客のレベルにあったおいしさを完成させればよいのだと。それからは満足度八〇%の配合で提供するようになりました。残りの二〇%は時間をかけて徐々に埋めてゆく。そして気楽になった余裕は周囲の気配りに置き換える。この開き直りが転機だったといえますね」
料理法については、「一〇分ぐらいでサッと煮込むのがコツ(煮込みすぎるとスパイスの香りが飛んでしまう)。おそらくカロリーは一般的カレーの半分ぐらいでしょう」という。ライトでスパイシーな味わいと、女性客、年配客に支持される要因はここにあるのだ。
こうした自慢のカレーをうまくサポートしたのがタンドールの導入だった。「確固たる看板アイテムを飛躍させるには、その専門イメージに合う脇役さえあれば良い」という定石通りに軌道化したわけである。
当然、タンドールでつくるナンや肉料理にもこだわりは欠かさぬが、カレーで試行錯誤を繰り返ししているだけに、メニュー開発における答えも早い。セット、コース、日替わりと徐々に守備範囲を広げ、インド料理店の繁盛店と化したのである。
タンドール導入からは、テーブル席やインド雑貨売場を次々に増設しテナントスペースを拡張、そして二号店の高崎店をオープンした。
また、食器は自らがデザインして仕様書発注、食材やインテリアについてはインドへ直買に飛び回るという活動家ぶりである。
現在の繁盛について真貝さんはこう分析する。
「バブルのまっただ中にインド料理店へ特化してきたが専門店色を濃くするだけにとどめてきた。そして価格を引き上げなかった。また、最初の五年間浮気せず看板商品のおいしさにこだわった。そうした積み重ねが現状を支えているのだと思います」
今年は二店舗をオープン予定という真貝さん。多店舗化はインドに恩返しする布石だという。
「商売でインドにお世話になっている以上、インドに何か還元しなくてはいけない。インド製品を購入したり販売することで少しは実現しているのですが、それでは商売の一部にすぎない。いまは深刻化する医療問題に対しての貢献を考えています。その援助金を捻出するのが多店舗化の目的です。現地に病院をつくるのが夢ですね」
多店舗化とインドへの恩返しがどのような足並みを見せるか楽しみだ。
◆(有)大阪屋/本部所在地=群馬県前橋市表町二-二-三、電話0272・24・0500/ストアブランド=「マハトマニューデリー」/店舗数=直営二店舗(前橋店、高崎店)/創業=昭和53年7月(前橋店)/形態・坪数・席数=前橋店・ビルイン・三〇坪・三四席(フロア一五坪)、高崎店・ビルイン・五〇坪・六六席(フロア三五坪)/営業時間=前橋店・午前11時30分~午後8時30分、高崎店・午前11時30分~午後10時、いずれも不定休/客単価=昼一一〇〇円、夜一八〇〇円/一日来店客数=前橋店・一二〇~三〇〇人、高崎店・二五〇~五〇〇人/年商=前橋店・九〇〇〇万円、高崎店・一億五〇〇〇万円/従業員=前橋店・正社員七人(ほかアルバイト二~三人)、高崎店・正社員八人(ほかアルバイト二~三人)/客層=男女比は三対七。二〇~三〇代の女性が大半を占める。
◆真貝純一代表取締役/昭和28年、群馬県前橋市出身。家業の酒屋を継ぐが、売り手論理の酒販店体質に嫌気がさして独立。根っからの凝り性と自然志向が相まってカレーショップを新規オープンする。持ち前の性格で、きめ細かなメニュー政策と雰囲気づくりに没頭。独学でカレーショップをインド料理店に特化してしまう。現在は「インド文化を商売にしているのだから、儲けの一部を医療援助という形にしてインドに恩返ししたい」と考えている。そのための多店舗化策を模索中だ。