注目の外食ベンチャー 博多ラーメン「まるきん」 ゆで時間はわずか1分
飲食ビジネスの中でもラーメンは容易に参入しやすい業態だ。既成概念にとらわれず、個性が打ち出せ、おいしければ消費者に支持され、繁盛店になれる。博多ラーメン「まるきん」もそういった店の一つで、創業四年で直営八店舗を出店する。
博多ラーメンといえば、豚骨を煮込んだスープで、コクのある味で知られているが、この店もそれにたがわず、豚骨を一〇時間前後煮込んで、骨のエキスを完全にとりきった深みのあるスープだ。スープをとる豚骨は、一般的な博多ラーメン店に比べ六〇〇~七〇〇㎏と三倍くらいを使うので、味に深みが増すのは当然のことだ。
豚骨スープの博多ラーメンは、かつて東京市場においてはマニアックな存在であったが、現在では個性的なラーメン商品として、多くのラーメンファンに支持されている。まるきんもそのラーメン需要を見込んでの店舗展開だが、提供している商品は基本的には一つしかない。
商品のバリエーションは、トッピングを換えて品目を増やしている。トッピングはのり、高菜、煮玉子(各一〇〇円)、ねぎばか(二〇〇円)、チャーシュー(三〇〇円)の五種類だが、客は好みに応じてトッピングを組み合わせ、増やすことができる。
基本メニューは博多ラーメン(五五〇円)。この商品には、のり、ねぎばか、チャーシュー(一枚)がのっており、店が提供している唯一の定番メニューだ。
麺は自家製の細麺を使用している。これは釜ゆでの時、熱を通しやすく、ゆで上がりが早いためだ。ゆで時間はわずか一分。ファストフードに劣らないスピードクックだ。基本商品は一つ、調理はクイック。単純そのもの。徹底して生産性を追求した運営形態ということだ。
「街中にはいろんなラーメン店がありますから、個性の主張がないと埋没してしまいます。うちの売り物、特色は何か。それからチェーン志向していますから、調理のシンプル化と生産性の追求です。それで今の運営形態になっているわけです」(代表取締役社長・楠田裕志氏)
一九九四年3月、白金(東京・港区)に一号店を出した。立地は住宅街、商店街、またビジネス街ともつかない、性格のはっきりしない場所で、首都高速二号線高架下での出店だ。店舗面積一〇坪、客席数一六席。道路沿いの店舗なので、ドライブ客の来店も多く、日商四〇万円前後と好成績を上げている。
この後、店舗は東京都内を出店エリアとして、麻布十番、上馬、雪ヶ谷、渋谷、六本木、目黒店と展開し、昨年11月には中延店を出店、創業四年で八店舗目をオープンすることになった。出店環境は道路沿いが基本で、車客が吸引できることを念頭においている。
このため、駅前や商店街、繁華街といったいい場所でなくてもよい。むしろ立地的には二等地、三等地志向といった出店戦略だ。店舗面積は一〇坪から一五坪前後。
投資コストは入居費、内外装、設備費合わせて二〇〇〇万円前後。現在は賃料も低くなっているので、物件取得は容易になっている。店の造作もシンプル。出店にはコストはかけない。初期投資を抑えれば、償却も早くなる。償却期間は三~四年内。
一般的なラーメン店に比べても償却は一、二年は早い。原材料コスト三〇%、粗利七〇%。ラーメン店にしてはコストは高い。一般的には二〇~二五%前後といったところだが、まるきんの場合は使う豚骨の量が多いので、その分コストを押し上げていることになる。
商品はシンプルだが、味の作りの面でコストをかけているということだ。しかし、一つの定番商品、トッピングでのメニューバリエーションなので生産性は高い。純益も一五~二〇%の水準にある。昨年度売上げは七店舗で約五億三〇〇〇万円。単純に計算すると、一店舗当たり年商七五〇〇万円の売上げ。数字的にもいい結果が出ていることを証明している。
屋号の「まるきん」(ロゴマークは○に金)はゴロがいいのと、「商売繁盛」という願いを込めてネーミングした。ラーメンを始める前は、和洋のレストランを数店舗経営していたので、正確にいえばピュアな「飲食ベンチャー」とはいえないが、しかし、ラーメンは初めての業態だ。
レストラン経営は、料理人や生産性などの問題で、うまみがないビジネスと分かったので見切りをつけた。現在はすべて手放した。
「ラーメン店なら個性が打ち出せるし、軽装備で店が出せます。もう一つ大きな特色は、高度の料理技術を必要としないので、人件費のかかる料理人を置く必要がない。つまり、生産性、投資効率が高い業態ということです」(楠田社長)
ラーメンは屋台でも、カウンターだけの店でも店の形態に関係なく、小回りの効く出店が可能だ。小さい店から出発して、やがてチェーン企業になったというケースは少なくない。博多ラーメン・まるきんも、チェーンビジネスを目指しての参入だった。
チェーン展開には直営出店を踏まえてFC展開という出店戦略もあり、質的経営はともかくとしても、現在の大手ラーメンチェーンはほとんどがFCシステムでの出店だ。
まるきんもスタート時はFC展開を意図していたが、実現はもっと先になりそうだ。八店舗を出したことで、全体のマネジメントやCKの能力の問題などで、体制固めの課題が生じてきているからだ。
「当面は一五店舗くらいを目標に出店を進めていきたいと考えておりますが、これは来年からのステップと考えております。FCシステムについては、出店は容易でも、その後において加盟店オーナーとの人間関係や経営指導の問題などで、いろいろとむずかしいこともあり、現実面の課題として本部組織や経営面の体力をつけなければ、導入は無理と判断しております」
楠田社長の描く店舗展開は、ここしばらくは直営出店でチェーン化を進めていく考えのようだ。FC展開は、物件確保など他人資本を活用して出店を伸ばしていくチェーンビジネスだが、バブル経済後は物件の取得も低コストで済むようになったので、当面は自前でチェーン化を進めていくという方針にある。
「とにかくFC展開は自力をつけてからです。店を増やしていくのなら、直営出店に加え、社員の『のれん分け』という手段もありますし、どこかとジョイントすることも考えられます。急ぐことはないと判断しているのです」
今後(九八年以降)の出店については、現在展開している城南地域から神田、秋葉原、上野、王子など城北方面へ展開していくことを考えている。
(しま・こうたつ)
●基本(定番)メニュー
博多ラーメン…五五〇円
●トッピング
のり……………一〇〇円
高菜……………一〇〇円
煮玉子…………一〇〇円
ねぎばか………二〇〇円
チャーシュー…三〇〇円
いっさいがっさい(盛り合わせメニュー)………………一〇五〇円
替え玉…………一〇〇円
ギョウザ(水)四〇〇円
(焼)四〇〇円
ご飯……………二〇〇円
半ライス………一〇〇円
ビール(缶)…四〇〇円
●売れ筋メニュー
いっさいがっさい二〇%
ねぎばか…………二〇%
のり………………二〇%
煮玉子……………二〇%
ギョウザ…………一〇%
◆(株)まるきん/店名=博多ラーメン「まるきん」/本社所在地=東京都渋谷区猿楽町二-三、電話03・5489・2414/創業=平成5年3月/資本金=二〇〇〇万円/代表取締役会長=恩海光/代表取締役社長=楠田裕志/店舗数=八(平成10年3月末現在)/年商=五億三〇〇〇万円(平成9年度)/社員数=二一人
◆楠田裕志(くすだ・ひろし)社長=昭和24年、福岡県博多市出身。日本大学商学部経営学科卒。
日大の経営学科を出ているというだけあって、店舗経営は生産性の追求に徹している。
ラーメン分野は初めての挑戦だが、過去に和食、フランス、イタリアレストランの経営と飲食の経営実績がある。
ラーメンビジネスに挑戦するきっかけは、ステーキとラーメンが好きだったことが大きな理由だが、結局は個性が打ち出せるラーメンを選択した。
ラーメンなら、出身地の福岡は博多ラーメンで有名だ。個性の豚骨ラーメン。黒豚のがらを一〇時間、骨髄が出るまで煮込む。味はコクがあるが、脂肪分が熱分解しているので、淡泊なテーストも持ち合わせている。
他店の物まねはしない。シンプル、オリジナリティーを追求するというのがこの人のモットーだ。
だから、定石に従えば、他店に関心を持ち、いいところは取り入れるということになるはずだが、この人には一切そういうことがない。
ゴーイングマイウエー。確信を秘めた飲食ベンチャーということだ。