特集・回転寿司:ヒットメニュー開発講座、ビジュアルこそ最大の武器
回転ずしといえば、何となくチープな印象がつきまとっていたのは昔の話。今では、気軽に、何の気兼ねもなく、しかも計算しながら食べられる明朗会計がウケて、幅広い層に支持される人気業態となっている。商品も、昔ながらの安かろうまずかろうではお客は見向きもしない。回転ずしといえど、強力な商品力が要求される時代になったのだ。
回転ずしの最大の特徴は、お客は目の前の商品を確認しながら購入をするという一点にある。従って、売れるか否かはビジュアライズされた魅力がその皿に表現されているかどうかで決定される。見た目がすべてといってもよく、食べてみなければ味の想像もつかないというのでは、最初のハードルを越えられない。
ひと目でその魅力が理解されるような商品こそ、ヒットメニューづくりの最大のポイントだ。もちろん、大トロやアワビ、ウニなどの高級ネタを使うのも良いが、それでは売値が高くなりすぎてしまう。それよりも、品質的にはそれほど高くはないが、ネタの大きさと量を多くすることが効果的だ。特に、すしネタの王様であるマグロでやるのが一番だ。
業界で「女郎にぎり」と呼ばれる、ネタが大きく、すそを引きずるようなスタイルのすしで繁盛しているケースがあるが、このスタイルを応用すると面白い。特定のネタ、マグロならマグロのみをこの方法で提供するのだ。
もちろん、女郎にぎりにすればそれだけ原価はかかるが、それは筆者が常に提唱しているように、一皿当たりの下限の粗利益高を設定し、あとはすべて原価にかけてやるという考え方をすれば良い。
つまり、一皿二カンづけで一二〇円、その粗利益高は六〇円とすれば、女郎のマグロを二〇〇円で売り、原価は一四〇円かける方法だ。いずれも粗利益の絶対額は六〇円だが、六〇円の原価の商品と、一四〇円の原価の商品では、見た目の価値観は極端に差がつくはずだ。
お客としては、目の前に流れるこの商品を見れば、これを食べなければ損だ、と思わせるほどの強烈な魅力が生まれる。
同様の発想で、一般の回転ずしとは異なる独自の提供法を考えるのも一法だ。たちの店では良く使われる「穴子の一本握り」や軍艦握りで、わざとネタがこぼれるくらいに多く盛る手法も面白い。
これも売価、原価的には前述と同様の発想によって商品化が可能になる。また、卵焼きに「焼き印」を押すのは高級店でよく見かける手法だが、これは原価は不要。若干の手間はかかるものの、回転ずしで焼き印の入った卵焼きは珍しい。高級店と同様にシャリなしで提供するか、ごく少なめのシャリで握るのも本格感があって良い。
また、ポピュラーなネタの商品にひとひねりを加えて、他店との差別化を図るのもうまい方法だ。人気のネギトロも、ネギをごく薄切りにしてネタに天盛りでタップリと乗せたり、ホタテにレモンスライスの小さなものをあしらったりといった工夫が喜ばれる。これもそれだけ余分な手間がかかるのは確かだが、このような小さな差別化努力がお客のロイヤルティーを育ててくれることに気づくべき。
一般のすし店に比べ、回転ずしでは若者客や女性の割合が多い。それだけ気軽に利用できる証拠ともいえるが、一方で、これらの客層にはそれなりに嗜好にフィットするオリジナルなネタを売ることも考えたい。
若い客層に特徴的に売れるネタといえば「マヨネーズあえ」のタイプ。いわゆるサラダネタになるが、マグロの手くずをボイルしたフレッシュツナのサラダずしや、タコの足先を使ったタコのサラダずしなどは、商品そのものとしても期待できるが、ロス退治の利益商品としても価値がある。
また、最近のヘルシーブームからすれば「野菜」のネタも面白い。季節ものになるが「水なす」を握りにしたり、漬物にして握るのも一法。山芋とオクラのタタキの軍艦巻きや、納豆とオクラのタタキなどもヘルシー感があるうえ、生ネタの口直しとしても向いている。
若者層や女性層に徐々に定着しつつある「西海岸風」のすしも応用がききそうだ。すでにポピュラーになったカリフォルニアロールや、とび子をつけて裏巻きにしたタイガーアイロールなどは、見た目に華やかさと楽しさがあり、この業態にはピッタリのメニューといえる。目の前を通れば思わず手がのびる。そんなビジュアルづくりこそ、ヒットメニューのベーシック要素と知ってほしい。
■筆者紹介■ 押野見喜八郎(おしのみ・きはちろう)FSプランニング代表。外食企業・食品会社の経営、商品開発コンサルタントとして活躍中。専門である商品政策やメニュー指導では第一人者としての定評がある。「ヒットメニュー全科」(商業界)、「喫茶店経営改善ハンドブック」(柴田書店)など著書多数。業界誌でも健筆をふるう。