御意見番!業界ニュースを斬る:すかいらーくの増収増益について

1999.04.19 176号 12面

日ごろ報じられる大手偏重の外食ニュース。理屈や数字などいろいろ活字になっているが、詳しい中身は分からない。本当に書かれている通りなのか? 掲載スペースや見出しの大きさだけでニュースバリューを判断していいものか? 最近載った飲食店業界の重大ニュース記事をテーマに、業界の御意見番から記事に対する解説をもらった。今回のテーマは日経流通新聞2月24日付の外食版トップ・すかいらーくグループの決算記事について。

すかいらーくグループ各店の現状からいって、これだけの業績を残しているのだから立派。しかも店長の年収は、この不景気にあって五五〇~九〇〇万円と聞く。これなら「店長=チェーンストアロボット」と嫌みをいわれても、すごく幸せだろう。飲食チェーンストアの労働はある意味でとても楽。一般企業のように創意工夫を迫られることなく、マニュアルに従って働くだけだから、普通の人ならだれでもできる(むろん優秀な人材もたくさんいる)。

先般訪れたスカイラークガーデンの従業員ものんびりしていた。席に着いてから三〇分たっても注文を取りにこない。従業員はたくさんいるのにパッシングも全然されていない。あれで店長の年収が最低で五五〇万円というのだから、やっぱりすごくいい会社だ。それで利益を出しているのだからとても余裕がある。真剣にやっていて利益が出ない、社員の給料も少ないというなら、すかいらーくも厳しいのかと思うが、あれならまだまだ大丈夫。心配無用だ。

逆に無駄がないと面白くない。すかいらーくは「新規事業でコケてばかり」というイメージがあるが、逆に、すかいらーくほど新規事業を成功させている企業はない。チャレンジャー精神は依然旺盛である。いくつかの失敗はどうってことない。別に失敗しようと思って失敗しているわけでもないし。それでも店長の年収は落ちないんだから。

すかいらーく、ガスト、ガーデン、グリルは、多様化する客層に対応すべく業態をすみ分けたはずだが、結果的にみな同じになっている。最終的には一つにまとまるのではないか。一時期のガスト化(低価格化)は軌道修正されたし、かといってグリルはいまの景気動向から見てニーズに合わないと思う。二〇年先を見据えるならガーデンがベストだと思う。

日本は米国の二〇年後を追っている。最近ガーデニングが注目されているが、「ハーブのある暮らしっていいじゃないか」ということを、少しずつ日本も思いはじめている。米国があれだけ心の成長を遂げたのだから、日本も同様になるだろう。ガストのような生産性追求や価格訴求の時代はもう終わった。ガーデンは、米国が二〇年前に追った夢を日本で再現しようとしているのではないだろうか。

積極的な広告宣伝の成果が出てきているようだ。最近は折り込みチラシが多く、先般のバーミヤンの全面広告はとくにインパクトが強かった。FR業界の中で頭一歩抜け出したのではないか。

メニュー開発を良い方向へ牽引しているのはバーミヤン。バーミヤンはプライスゾーンを八〇〇~一二〇〇円に絞っている。だからお客は安心して足を運べる。加えて二〇〇~三〇〇円の居酒屋クラスのメニューもあり割安感もある。逆に、ガーデン、ガスト、グリルはプライスゾーンにメリハリがない。これが問題だ。とくにガーデン。当初は単品志向だったのにセットメニューを打ち出して割高感が出てしまった。不振要因はこうした中途半端な価格設定にある。

メニュー開発は上手なのに、プライスゾーンまでいじるからおかしくなる。お客の利用動機に沿ったプライスゾーンに落とし込めれば、必ず売れると思う。

すかいらーくは今回、好調なバーミヤンを吸収し、総合力を強めたイメージがある。だが、ウイークポイントの人材面については未解決。FFや弁当屋など数多く実験し、ことごとく失敗しているが、大したことはない。戦略的大失敗は社員対策、人事面である。

その根底にあるのは旧態依然としたチェーンストア理論への執着だ。本部は現場(店)に対し、「いっさい創造工夫をするな」「考えるな」「言った通りにやれ」という。そして人使いも荒い。FR創生期、飲食店の地位が低かったころは、それでも成功した。むしろそれだけで十分だった。しかし、現在は従業員の知的レベルが上昇し、ユーザーニーズも変化し続けている。従来のやり方は通じない。

厨房機器、食材加工、店舗開発、物流など、ハードは進歩しているのに、人材というソフト面が立ち後れている。店長が代わるとアルバイトも全部代わるなんてことが、いまだある。サービスレベルのアップ・ダウンが激しいというのは、そこに起因する。

すかいらーくの課題は、チェーンストア理論で過ごしてきた社員を今後どのように生かすかだ。のれん分けなど社員独立のシステムを打ち出せるか否かがカギとなろう。

数字ではそれなりの結果を出している。が、現場の従業員がそれに見合う充足感と価値観を持っているか、お客さまが価格が安いというだけで本当に満足しているか、はなはだ疑問である。株式を上場すると、どうしても数字ばかり追ってしまう。しかし数字は株主が評価するものであって、お客さまの評価ではない。すかいらーくグループのなかでハイレベルかつ好調なのは間違いなくジョナサンである。そのジョナサンの数字が悪くて、他ブランドの数字が良いのだから、本当の優劣は数字だけで判断できない。

飲食業界は二極分化が進んでいる。付加価値を付けて客単価を上げるフードサービスと、空腹を満たすだけの簡易フードサービス。すかいらーくグループは、後者へ向かうのではないか。これはもう製造・販売業であって外食(飲食)業ではない。全くスタンスが異なる事業としてこうした報道を読むべきだと思う。

すかいらーくのような大手企業は、事あるごとマスコミに大きく取り上げられるが、決してわが国外食産業の主流ではない。すかいらーくの経営陣は確かに大変な努力をしている。でも、規模の追求はすでに終わったはず。付加価値産業として取り組んでいる中小企業、単独店の方が、よっぽどまともな商売をやっているのではないか。

いま、「システム」「低価格」「資本力」を前面に出したチェーンストアと生業店志向のローカル店で、バッティングがし烈化している。しかし、チェーンストアの攻勢に対し同じ土俵で戦うのは愚かだ。チェーンストアは確かに生き残る。しかしフードサービス本来の役割として生き残るのは、本当のおいしさと感動を売り物に、働く人の幸せを真剣に考えるローカル店である。すかいらーくの退職者に聞くと、現場は感動(歓働)して働いていないという。上場前のすかいらーくはみな生き生きとしていた。当時のように現場の士気を高めることが、最優先課題とされるべきではなかろうか。

すかいらーくグループは、キッチンパワーが限界に達している。はっきりいって商品は三年前と変わらない。とりわけガーデンの低迷に、これまで行ってきたキッチン合理化のツケが垣間見える。マニュアル調理を前提に簡便性を追求したコンパクト厨房だから、いま流行の高級感や専門性のあるハード志向のメニューに対応できない。これは同時に、調理人を育ててこなかったということでもある。

とにもかくにも一店に社員が一人か二人というのは少なすぎる。商品には、まず作り手側の思い入れがあるはず。もっと若いスタッフにキッチンを開放すべきだろう。例えば、オープンキッチンで洋菓子を作りたい人はたくさんいる。しかし、すかいらーくの現状では無理。進んでキッチンに入る者はいないだろう。そこにすかいらーくの限界があるのだ。

そして店長のマインド。すかいらーくの低迷は、店長がお客の顔を忘れたことに起因する。店長と料理長は本来どちらが偉いか。フランスの一つ星以上では店長が偉い。店長は、お客の好みを厨房に伝える重要な役割を担うからだ。すかいらーくの店長は、こうしたマインドが欠けているのではないか。

以前、「日野店で、ご飯が硬いので文句を言ったら炊き直してきた」という有名な話があった。待ち時間中、店長は何度も謝りにきたという。こうした良き伝説はどこに行ったのか。

むかし、すかいらーくはプレステージレストランだった。作り手の思いがあり、お客の笑顔を喜ぶ店長がいた。当時のようにファーストに選ばれる店を再度目指すべきだ。

最近のすかいらーく社員は、東証一部上場の外食リーディング企業ということに安住している。現場やお客さまを理解しないうちからマネジメントに入る。これを即刻やめるべき。まず現場でキッチンを磨き、おいしい料理を出すことから始めないと、商品に誇りが持てなくなる。

労務条件は悪くないというが、退職者が多いのも事実。これは、店長が企業のコマ扱いを受けているからだ。店長は「九九%経営者」というのが私の持論。だから店長次第で売上げは二〇%前後する。これはすかいらーくの会長も言っていたはずだ。ならばシステムや価格よりも現場のマインドやスピリッツを優先するべきだ。

私個人としては「すかいらーくデー」を提案したい。創業者精神に立ち戻り、社長自ら現場に立ちレジを打つことだ。全社員が休まず、まず店の周りをきれいにして、二、三軒先まであいさつに行って、二キロメートル圏に愛される店になる。むかしの素晴らしさ、店史はどこに残っているのか。すかいらーくは何のためにつくったのか。その考えをもう一度上から下へ、清き水を流してほしい。

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